2019年度、夏:若林、ようちえんへ行く!

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 えええええぇぇっ!?  職員室に集う面々は目を丸くした。  ここがトリ目族であったなら大声を上げるところだろうが、上階のホールでは園児たちが就寝中だ。  かくして誤解は解けた。が。  その顛末を、主任を含む他のせんせいたちまでもが知る結果となった──。  月代さんが崩れるように床に膝をつく。  我に返ったミホせんせいが支えて応接用のソファに座らせると、月代さんは目の前にある湯呑みを掴んで麦茶をガブ飲みした。  「そう、そういうことだったの……」  ホッと息をついてソファにもたれかかる月代さん。  若林が説明する。    「葉月せんせいに知られちゃいけなかったとかで、話すタイミングがなかったそうです」  「えーっと。実は店長さんね、葉月せんせいに内緒で、水族館のカフェに偵察に行ったのよ」  ミホせんせいも、考えつつ何とか説明した。  同じ班の麗香せんせいも寄ってくる。  「偵察ぅ?」  「そう。なんかイルカの」  「あー、新作のパフェのことですかぁ?」  流行を分かってるせんせいがいると話が早い。  「その偵察に、藤堂さんも一緒に行ってたの。  店長さん、一人じゃ恥ずかしかったみたいで」  「へえー。可愛いとこあるじゃないですかぁ、店長さん」  「それが、ちょうど幼稚園の水族館見学の日だったってわけね?」  子安せんせいが考えるように腕組みすると、ミホせんせいは頷いた。  「はい。帰りに二人で芝生広場を通りかかった時に、ちょうど月代さんが」  ミホせんせいが隣を見遣れば、月代さんは放心状態である。  
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