2019年度、秋:美衣子せんせい、挑む!

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 かくして。  美衣子せんせいは、志織とともに意気揚々とスタジオに入った。  真新しい板張りの床。明るい照明、鏡に囲まれた空間。  こんな場所で素敵に踊れるようになったなら──。なんてカッコいいんだろう! カッコ良く踊りながら体力までつけられる。良い! 良いよ、ダンス!  志織が同じことを思っているかどうかは不明だが、彼女も期待に満ちた表情だ。  体験会に参加するのは二十名弱。これだけ大人が入ると、スタジオはいっぱいである。  「どーもー」  ドレッドヘアの若者が入ってきた。黒が基調のダボッとしたTシャツに、ピタッとしたパンツを合わせている。  「ダンス講師のKENでーす。じゃ、さっそく柔軟から行きましょう!」  KENさんとやらが頭上でパンパンッと手を叩くと、スタジオに軽快な音楽が流れ始めた。  (え、そんないきなり始まるの?)  戸惑いつつも指示通り動いていく。鏡に、締まりのない自分の身体が映った。美衣子せんせいはグッと拳を握る。  絶対、素敵になってやる!  まずは体力をつけて、運動会を乗り切るんだから!  (ひざまず)くようなポーズをとり、右脚をのばしていく。右腕を上げ、グーッと右に倒れる。  張り切っていた美衣子せんせいだが、途中からどう動けばいいのか分からなくなった。身体の向きだけは周りに合わせているが、身体のどこを伸ばすべきなのか分からない。  「意外と難しいね」  志織が弱ったような顔で話しかけてきた。  「はい、上体起こしてー。伸ばした脚をちょっと曲げまーす。左の腕をこう回してきて……右の爪先を触りますよー」  ええ? 遠いよ、右の爪先。  でも、志織を含めた周囲は何とかお手本通りにできている。  美衣子せんせいは、自分だってとばかりに「えいっ」と手を伸ばした。  (イダッ……!)  右腿の裏がピキッとなった。  怪我を予防するべき柔軟の段階で、脚を痛める美衣子せんせいである。
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