2019年度、秋:美衣子せんせい、挑む!

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 (痛ったあぁ……)  KENさんとやらは、今度は左脚を伸ばせと指示を出した。  涙目の美衣子せんせいは、シューズの靴紐を直すフリをしながら周りに合わせて右に身体を傾ける。  さっきのパターンを考えれば、次は「左の爪先に触れ」ということになろう。しかし、それをやると左腿の裏まで痛めることになる。  もう柔軟もへったくれもない。  美衣子せんせいは、とりあえず身体の向きだけ周りに合わせることに終始した。訳が分からない柔軟が終わる頃には、脚の痛みは引いたので助かった。  60分の体験会では、短い曲に合わせて踊れるようにすることを目的としている。ダンスの基礎的な動きを取り入れた易しいものだ。基礎を学びながらこれだけのことができれば、初心者としてはかなりの充実感を得られるだろう。しかし。  (ちょっと、KENさん。分からないまま進めないでよ!)  美衣子せんせいは、ついていけてなかった。  初めは遅いカウントで。少し早めて、最終的に曲に合わせるという段階を踏むが、順調にできるようになる人は半分ほど。  体験会の申込みが続々と集まるクラブ側としては、少人数を相手に懇切丁寧に教えていくのは非効率なのだ。1クラスになるべく多く人を入れる必要があり、60分以内に振り付けを終えるという決まりもある。  KENさんも大変なのである。
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