2019年度、秋:美衣子せんせい、挑む!

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 美衣子せんせいは、とりあえず左右にステップを踏むときだけ頑張った。  隣の人とぶつかるからだ!  ステップを踏めているかどうかも怪しい。もう、移動しているだけである。  チラリと志織を見遣れば、音楽にノリながらけっこう楽しそうに踊っている。  (志織のやつ……自信ないなんて言っときながら!)  まあ、女子にはありがちなことだ。分かっていることなので、そう腹も立たない。  (そういえば志織、運動神経だけは良かったっけ)  ほんの一瞬、学生時代を思い出す美衣子せんせいであった。  「はい、OK! お疲れ様でしたー! 良かったら正式入会してってくださいね!」  長い60分が終わった。  (ひたすら気をつかう60分だった……)  できればダンスに没頭したかった。頑張って継続すれば、ダンスだけに集中できるようになるのかもしれないけれど。  ああ、自分の性には合わないんだろうな。  笑いかけてくる友人に作り笑顔で応えながら、そう悟った美衣子せんせいである。  (許せ、志織。来週のこの時間、私はここには来ない)  こうして、秘密の特訓はわずか二日で幕を閉じた。  その後の美衣子せんせいは、この時期の多くの保育関係者と同様、運動会の準備に忙殺されていくこととなる。  のんちゃんたち、最後の運動会が近づいている──。  
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