主題

1/1
前へ
/36ページ
次へ

主題

 気づくと夢の中にいた。螺旋階段を歩いていた。閉ざされた空間の内側を、ぐるぐると円を描くように階段があった。  頭上の先に見えている階段の(うず)をよく見ると、階段は、上へ上へと、終わりの見えないまま続いていた。では下は?と思い、螺旋の渦のなかを、下の方へと目をやると、そちらもどこまでも階段が、下へ下へと続いていた。  けれども、上も下もどこまでも渦巻だったのに、歩いている僕の前に広がる四角で構成されている階段の段々の世界は、歩いても歩いても、景色はほとんど変わらなかった。  しかたない。何かに突き動かされるように、僕は歩みを進めていた。    そのとき、ある疑問がわいた。  さて僕は、上を目指しているのだろうか?  それとも下に向かって歩いているのか?  前へ広がっている景色も、後ろへと広がる景色も、ぐるりと階段が続いているだけで、そしてその階段の傾斜はとても緩やかで、ともすれば平坦で、僕の身体の平衡感覚は、上下を正しく感じとれていないのだと、そのとき僕は気がついた。  いやいや、僕は足を上にあげて歩いているし、階段は、たしかに上へ向かって続いている。  いやいやでも待てよ、建物全体が下に傾いている構造かも知れない。  登っているのか? (くだ)っているのか?  外へ出ようとしているのか? それとも空間の中へ?(うち)へと向かって歩いているのか?    そんな疑問を持ったけれども、刹那、すぐに忘れて、僕は前を向いた。  この場所は、薄暗く、風は無い。足音だけがコツコツと響く。      (たまご)の内側には、こんな螺旋空間が広がっているのだ。
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加