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ティッシュを配っていた駅から15分ほど歩くと、彼らの大学があった。
「ちょっとカオル、待ってよ…」
段ボールを抱えて追いかけようと振り返ると、すぐ目の前の信号が赤へと変わってしまった。
横断歩道に阻まれて、カオルはもう見えなかった。
しかし彼がそっけなくあっさり消えてしまうことはよくあることだった。
どちらかといえば、今回よくこのバイトを引き受けることにしたものだと、そっちの方が不思議だった。
信号を渡った先は、駅へとつながっている。彼は駅へと消えたのだろう。町田は駅ではなく大学へ戻るつもりだった。
二人は農大畜産学部の2年生。
また次もカオルをバイトに、ダメ元でも誘ってみよう。そう思いながら信号の対岸をぼんやり眺めていると、向こう側の人々の足元になにやら動くものがあった。
ん、………あれは猫か?
人々の足元をかろやかに縫うように動く白い猫だった。
人の目は動くものを自然ととらえるようにできている。横断歩道の向こうの何人かは、自分たちの足下の白猫に気がついている様子があった。
道の途中でひょっこり猫に出くわすことは、それほど不思議なことじゃない。けれどもそれほど猫好きではない町田が、どうしてもそれから目が離せなかったのは、慣れた風で信号待ちをする白猫の佇まいが美しかったからだった。
信号が、青に変わった。
町田はその猫の行方がひどく気になって、夢中で、視線で、猫を追った。
猫は優雅に信号をこちら側へと渡ってきた。
あ、こっちに来た。
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