1-1、二重らせん

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   カオルは改札にいた。大学へ行こうとも考えたが、足がたまたま駅を向いていたので、なんとなく人波に任せていたら、ここにたどりついていた。  とにかくあの場所から離れたかった。なぜって、理由は簡単。町田と一緒にいたくないから。  町田とはただの腐れ縁だった。たまたま家が近所で、小中と同じ学校だった。高校だって、たまたま進路が似通ってて、そんなに難関校ではない地元の普通校に、普通に進学したまでだった。  いつも一緒だなんて、言われる覚えはない。カオル自身は、クラスメイトから揶揄(やゆ)される理由が、さっぱりわからなかった。  なんか息苦しいんだよな…。  とくに予定はなかった。電車に乗ろうかそれとも駅前をぶらつこうかと思案しつつ、券売機の前に立っていた。  さてどこへ行こう。こんなときには、勝手知ったる馴染みの場所を選ぶのか、それとも新たな発見を求めて初めての場所を選ぶのか、暇な大学生にはそんな選択の余裕があった。  俺も大概、物好きだよな…。  寒さが苦手なのは本当だった。行くならどこかあったかい場所がいい。あったかくて、金のかからない、身近で落ち着けるところがいい。図書館にでも行こうか。そう思いあたったとき、カオルは後ろから誰かに肩を掴まれた。  「相変わらず仲がいいんだか悪いんだかなんだな、お前たち」  声をかけてきたのは、今ちゃんだった。  農大の准教授。白衣で金髪。中肉中背で私服は黒色ばっかりの長髪メガネ男。  これって、昭和だったらカッコ良かったのだろうか? いまどきは若手の金髪准教授なんて、どこの大学にもいる気がする。  「なんですか? 先生」  今日の今ちゃんは、後ろに一本に束ねた金髪を三つ編みにしていた。    「そんでお前は相変わらず、眠そうだなあ」  ニコニコと話しかけてくる今ちゃんに、カオルは冷たい視線で返した。  「町田ですか? だったら信号のほうにいますよ」  「いや、今日は高橋に用があるんだ」  今ちゃんを知る農大生は「今ちゃんのニコニコは癒しパワーがある」なんて言うけれど、カオルには愛想笑いにしか見えない。    
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