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「ティッシュ配りは終わったんだろ。お疲れ」
高橋のバイト終わりを見計らって、だからこのタイミングで声をかけてきたのだろうと見当はついた。
「レポートだったら出しましたよ。牛か馬か豚の観察日記」
「ああそれな。どれでやった?」
「俺馬です。あいつは豚です。あいつはまだ提出してないみたいですけど…」
「3年になったら各自の担当を割り当てるから、今のうちにいろいろな厩舎を見とけよ。熱心な奴は朝早くから希望のところに顔出して、アピールしてるぞ」
「はあ、まあ」
外見に気を使っているチャラ男の割に、意外と指導に熱心な今ちゃんは、カオルの顔を覗き込んだ。
「お前さ……」
「なんですか?」
「そんな、迷惑そうな顔するなよ」
「こういう顔です」
カオルのむっとした態度に、今ちゃんはニヤッと笑った。
「お前さ、俺のバイトやらない?」
おまけにウィンクまでつけた今ちゃんは、じっと返事を待った。
「……それこそ、町田の用でしょ」
「だよな…」
はいこれで話は仕舞いと、その場を離れようとするカオルに、今ちゃんは続けた。
「それがさ、町田には不向きなバイトなんだ」
「はあ? あいつでダメなら俺なんかがつとまるわけないでしょ」
准教授の先生に揶揄われてるのだろうか。町田には無理で自分に向いているバイトなんてあるのだろうか。
なんだか腹が立ってきていた。今ちゃんの表情だけでは真意の程はわからないけれど、どっかがなにか気に食わなかった。町田だったらどうするだろう。近くにひょっこり町田がいないものかと、カオルの目は泳いだ。
「町田はさ、チョロチョロとよく動くだろ。バイトも1日に2、3個かけ持ちしてるし」
「詳しいですね」
「お前暇だろ。特にバイトもしてないし、ちょうどいいんだよ」
なるほど、とカオルは思った。
そういうことなら確かにうなずける。けどそんな、じっくり取り組む仕事ってなんだろう?
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