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カオルはそれまで、まあ町田は別として、誰かから頼りにされたことなどほとんどなかった。
カオルには2歳上に兄がいて、その兄がよく気のつく人で、幼い頃からなにかと面倒をみてくれていた。仕事で留守がちだった両親に代わって、宿題の相談はもちろんのこと、おやつの準備から夕食の支度などまでも、兄がすべてしてくれた。
その兄が高校を卒業して、海外に留学することになり、急に生活のいろいろなことが、自分でやらないと成り立たないという現実がやってきた。
「カオルはさ、俺と父さんと母さんに、大事に大事に育てられてきたんだよ。だけど俺らはお前を大事にしすぎちゃって、自分ではなんにもできないつまんない子にしちゃったのかもしれない。先に謝っとくな。カオルごめんな。これから頑張るんだぞ」
兄のいない家にポツンと一人でいることが多くなった。それは非常に心細いことだったけれど、そんなことは誰にも言えなかった。俺は一人でなにをしよう…。
狭かった視野が急に広がったようにも感じた。
今ちゃんは、兄に、どこだか少し似ているかもしれない。
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