オチのない話

どうやら私はトイレの神様に好かれているらしい。
満員電車の中、私はそう考える。
小さい頃からトイレ掃除は自分の担当だ。
トイレというと下のほうの汚れが多く、苦手な人も多いと聞くが私は汚れが落ちていく瞬間がとても快感でいつもぴかぴかに磨き上げている。
茶色く汚れていた部分が白く輝きを取り戻す姿を見るときはいつもとてつもない高揚感を得るのだ。
だからトイレの神様がいるとしたら、きっとその人は私のことが大好きなはずだ。
毎日毎日綺麗に磨き上げる人間を、とても好ましく思っているに違いない。
そして今、私のお腹が猛烈に痛むのはきっとトイレの神様から呼び出されているのだ。
ぎゅるぎゅるとなるお腹。
目的の駅まではあと2駅。
そこから電車から降り、駅のトイレに駆け込むまでの時間はおよそ10分弱。
お腹の痛みが少しでもマシになるように、何か他のことで気を紛らわせようとSNSを開くが気が付けば検索している「電車　下痢　対策」のキーワード。
普通に下痢止めをおすすめされたけどそんなもんもってねーから困ってるんだよちくしょう。
それともこの満員電車の中、「お腹が痛いから助けてください！」なんて叫べば誰か一人ぐらいは下痢止めを持っているのだろうか。
いやいやたかが数分我慢すれば解決にすることなのに、そんな恥をさらしてまで今すぐ解決する気にはとてもなれない。
そういえば風のうわさでトイレの神様は綺麗な人だと聞いたことがある。
そんな綺麗な人に私はいつもお世話をされているのか・・・。
いや私も綺麗にしているからお互いお世話しあっていることになるのか？
しかし、そんなに綺麗なのに嫌な顔せずお世話しているなんて
トイレの神様がもし現実にいるならきっと素敵な介護士になるだろう。（もしくは看護師？）
あぁ、トイレの神様ありがとう。
そんなに綺麗な姿ならきっといろんな方から引く手あまただっただろうに
毎日私のお腹のお世話をしてくれているなんて、申し訳なさと有難さで涙がでそうだ。

でも、でもね神様

どうか電車の中で私を呼び出すのはやめてほしい。
いやいや決して貴方が煩わしいわけじゃない。
むしろ私を好ましく思ってくださっているのは光栄の極み。
でも、でもどうかこの閉鎖した空間の中で呼び出すのは勘弁してほしいのだ。
神様の世界にはもしかしたら携帯電話というものがないからわからないかもしれないが、人間界では電車の中で電話をするのはNG。マナー違反なのだ。
満員電車の中、一人でも携帯電話で話をする人間がいたらそれはとても目立つし、何より周りの人の迷惑になる。
だから大抵の人は電車から降りた状態の時に電話をとるように、今いくら呼び出されても私は貴方の呼びかけに答えることはできないのだ。
私としても普段からお世話になっている貴方の呼びかけに答えることができないのは非常に心苦しい。
なので、電車から降りて近くにトイレがあるという万全の状態にどうか呼び出してほしい。
そうすれば私はすぐに貴方の元へ駆けつけることができるし、何より他の人に迷惑をかけないで済む。

あぁ、だからどうか神様

電車の中で私を呼び出すことだけは勘弁してください。