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ボテっと厚すぎてもダメ。少し薄いくらいで、皺は目立たない方がいい。ナチュラルなつやがあり、ほんのり色付く唇が好きだ。
そんな唇を追い求めた結果、皮肉なことに子どもの頃から一緒にいるおうちゃんが一番理想に近いことに、最近になって気づいてしまった。
自覚すると急に恥ずかしくって、今まで通りに接することができなくなった。
おうちゃんとしゃべっていても視線は目じゃなくて唇に吸い寄せられてしまう。どれだけ厳しいことを言われても、その唇から出てきた言葉だと思うと、全部許せてしまう。
さわりたい、ちょっとでいいから。でもそんなこと、おうちゃんに言えるはずもなく。
「ちぃ! だからボーッとするなって」
「ご、ごめん……ーー」
おうちゃんに怒られて焦って動かしたわたしの手は、机の上のマグカップに見事クリーンヒット。落下したそれはゴンッという音と共にフローリングに茶色い水たまりを作った。
「はー……なにやってんだよ……ったく」
おうちゃんは厳しい。優しい言葉はかけてくれない。
だけどなんだかんだ言いながら、わたしより早くフローリングを拭いてくれる。
「割れなくてよかった。俺があげたもんなんだから、気をつけろよ」
「うん……ごめんね」
思ったより怒られなくてホッとした。せっかく二人でいるのに怒られてばっかりじゃ楽しくない。そうでなくても最近おうちゃんはわたしから離れていって、こうして二人きりになること自体久しぶりなんだから。
すっかり安心しきってマグカップを机に戻そうと手に取った、その時。おうちゃんは、わたしを凍りつかせるには十分な一言を放った。
「ーーねぇ、なんで最近おれのことエロい目で見てんの?」
えろいめ…………エロい、目?
わたしの頭はたちまちフリーズ。辛うじてマグカップを落とさなかったのは不幸中の幸いだろうか。
「な、な、なに言ってるの? あ、あー空っぽになっちゃったし……カフェオレ入れてこよっかな?」
乾いた笑いを浮かべて立ち上がったわたしを、だけどおうちゃんは許してくれなかった。左腕をぎゅっと掴まれてわたしの体は床に敷いたクッションの上へ。
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