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「おうちゃん……?」
「ねぇ、答えてよ、ちぃ」
「えっエロ……い……目、なんて……見てないもん……」
「嘘だね。おまえの様子が変なの、俺が気づいてないとでも思ってんの?」
おうちゃんの手の力、強い。まっすぐにわたしを見てくる。こんなおうちゃんから逃げられるわけ、ないじゃない。観念したわたしはおうちゃんから目を逸らしてゆっくり口を開いた。
「お、おうちゃんの……く……く……」
「く?」
「くちびる……が……」
「唇?」
「く……唇が綺麗だな、さわりたいなって思っただけなの……!」
ああ、言ってしまった。恥ずかしくっておうちゃんの顔を見ることができない。呆れたかな、怒ったかな。だけど聞こえてきたのは意外な言葉だった。
「……いいよ」
勢いよく顔を上げる。おうちゃん、いつものムスッとした顔をしていた。聞き間違いだろうか。
「あの、今……?」
「いいってば、それでちぃの気が済むなら。あのさ、こっちは休みを潰して来てるわけ。集中してもらわないと困る」
「あ……ああ」
なるほど。
「ほら、早く」
おうちゃんはわたしの腕を掴んだままぐいっと引っ張った。おうちゃんの唇が指先を掠める。
「ひゃ!」
「あーもう、いいから早く」
ごくんと喉を鳴らす。いいんだろうか、本当に? でもこのままモタモタしていても怒られるだけだ。
そうっとそうっと、人差し指を押し付けてみた。ふにふに、柔らかくってあったかい。指先からなにか甘いものがじんじん伝わってくる。
想像以上の感触に体の奥底から込み上げてくるものがあって、途端に胸がドキドキして息が苦しくなってきた。どうしよう、なんだかイケナイことをしているみたいだ。
そう思うとおうちゃんの唇を黙ってふにふにしているこの状況が、とてつもなくいやらしく思えて仕方がない。わたし、なんてはしたないことをしてしまったんだろう。
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