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魅惑の✕✕✕
ふれたい。さわってみたい。どんな感触なんだろう、キミのそのーー。
「ーーちぃ…………千歌!」
苛立った声にハッとして慌てて目をぱちくりさせると、案の定目の前のおうちゃんは怖い顔でわたしを睨んでいた。
「えっと……」
「えっと、じゃないよ! 一問解くのにどれだけ時間かけてんの? この俺がわざわざ家まで来てやったんだから、集中しろ、集中」
そう言いながら向かいに座るおうちゃんが人差し指でトントン叩く先には、計算式が途中まで書かれたノートが。
……そうだった。数学ができないわたしのために、おうちゃんが特別授業をしてくれているんだった。それなのにわたしってば、つい余計なことを考えちゃって……ーー。
シャーペンをしっかり握り直して、ノートに向き合う。だけど気合いが続いたのはほんの数分だけで、数字と睨めっこしている内にやっぱり頭の中がこんがらがってきた。わたしの手は再び止まって、それを見たおうちゃんからすかさずため息が漏れる。
「ちーーーいーーー」
「だ、だってだって……わかんないんだもん……」
「だーかーら、ここは公式を使えって言っただろ?」
「つ……使ったよ? でもうまくいかなくて……」
しまいには頭を抱えるおうちゃん。
「ちぃ、おまえさぁ、このままじゃ三年になれないよ? わかってる?」
「うっ……わ、わかってる……けど……」
「わかってないね。緊張感が足りないんだよ。まずは簡単な計算ミスをしないこと。そんでもってボーッとしないこと」
計算ミスもボーッとしちゃうのもおうちゃんのせいなのに。こんな狭い部屋で向き合っていたら、嫌でも色々なことが気になってしまう。まったく、わかってないのはどっちなんだろう?
「……返事は!」
「は、はいっ……!」
おうちゃんの奥二重の瞳がきゅうっとつり上がった。
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