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契約が成立して、ほくほくで帰っていく上司を見送って、私は業務の続きに取り掛かる。
頼まれていた資料はできれば、今日中に仕上げてしまいたい。
「月蔵さん。」
「…っはい!」
「それ、今日中じゃなくても今週中で構わないよ?」
「でも、今日終われば、また明日から、別のお手伝いができますから。」
彼は、ふ…と笑った。
笑顔が素敵だ。
「ありがとう。でも、残業はダメ。」
気づくと残業の時間になっていた。
「…ですね。えっと、多分明日の午前中には、終わりますから、何かあれば、言ってくださいね。」
「では…」
隣の席に座っていた社長がこちらに向き直る。
そうして、隣なのになぜか席を立って、私の後ろに来て、背後からマウスを握っていた私の手に、その手を添えた。
どきん、と心臓が大きく跳ねる。
激しく自分の好みの人が、覆い被さらんばかりに自分の背後にいるのだ。
それに、斜め後ろにある顔が近いし、…なんだかいい匂いだし…。
マウスを動かして、彼は、『シャットダウン』をクリックする。
「え?」
「今日は終わり。」
「あの…。」
「月蔵さん、契約、更新してくれてありがとう。」
「いえ。こちらこそ…。」
「こういうのはいけないって、分かっているんだけど。」
「こういうの…?」
「月蔵さん、どうして、たまに俺のことじいっと見ているの?」
…っみ、見られていた!!
いけないのは私の方です!!
完全にそういう目で見ていましたから!
今日も、舐めるように、後ろ姿を見ていたかもしれません!
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