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「月蔵さんの視線には何か感じる。君は何を見ているの?」
…っく、…
…この人がここまで言っているのに、私が言わないのは何かフェアではない気がします。
「スーツ…です…。」
「スーツ…?」
「正確にはスーツを着ていらっしゃる社長のお姿、です。」
言ってしまった。
「へえ…。」
きらりと瞳が輝いたような気がするのは気のせいなのでしょうか。
「それが、月蔵さんのツボなの?」
コクリと詩乃は頷く。
頷くしかないではないか!
頷いた詩乃の首元を、社長がその指ですうっと撫でる。
「ん…っ…。」
「感度までいいなら、最高だな。」
「え?!」
思わず、自分のうなじを手で押さえてしまう詩乃だ。
「俺のこと、嫌い?」
嫌いなわけがない。
つい、そのスーツ姿ばかりを熱く語ってしまったけれど、そのお顔立ちもきりりとしていて、いわゆる、イケメンなのだし。
詩乃のツボ、であるスーツは完璧だし。
社長、なのだから、もちろん社会的立場もしっかりしている。
しかも取引先。身元はこれ以上ないくらいハッキリしていて。
その綺麗な顔がくすりと笑って、詩乃のうなじの手を退けると、ちゅ…とキスをして、甘く噛む。
「…あ…。」
「堪らないな。詩乃ちゃんは?」
詩乃の手を握ったままの社長は自分の首の後ろに、詩乃の手を回させる。
くらり、とした。
「なんか…どきどきします。」
「うん。俺も。」
見るだけだった、人に…触れてしまった。
温かい肩や…首に…。
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