縄縛遊戯

　翌日の夕刻。僕は早速、部屋に入ろうとする天宮くんを捕まえる。
「天宮くん」
　部屋の入口に手を掛けていた天宮くんが、桶を片手に怪訝そうな表情でこちらを見やる。
　銭湯が混まないうちに、風呂を済ませてきたのだろう。頬がほんのり赤く染まり、髪もまだ濡れているようで、ペッタリと黒髪が頬に張り付いていた。
「突然声をかけてしまってすまないね。折り入って話があるのだが……」
　そう言いつつ、視線はおのずと天宮くんの下腹部に向いていた。
　今日は紺色の単衣(ひとえ)に鼠色の帯を締めていた。この着物の下に何も付けていないのだろうかと、つい下世話な勘繰りをしてしまう。
「貴方は……坂間　透也さん……でしたっけ？」
「よく、名前がわかったな」
　僕は少し拍子抜けした。人に無頓着そうな彼が、まさか自分の名前を知っているとは。
「えぇ……だって同人雑誌に貴方が、構内一の美男子だと紹介されていましたから」
　まさか、そんな物を鵜呑みにするとは驚きだ。あれは、同じ趣味趣向の者達が集まって書かれたものだ。信憑性に欠けるという、考えに至らなかったのだろうか。
「でも、その人物が僕だとはわからないだろう。写真だって、載っていないんじゃないのか？」
「いろんな人に聞かれたんです。僕の……隣の部屋の住人が、雑誌の人物なんだろうって……」
「君はなんて答えたんだい？」
「わかりません、と……でも、僕にはなんとなく貴方なんじゃないかと思っていました……」
　天宮くんの言葉尻が徐々に弱々しくなり、僕から視線を逸している。
「そうか。そんなことより、一緒に僕の部屋に来てくれないか？」
「何故です？」
　警戒心が強いからか、昨日の痴態を秘めているからなのか。
　天宮くんは少し警戒の色を宿した目で、僕を見つめる。