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「まさか壱夜様が好いたのが同じ妓楼で働くあんただなんて。私は何度も、何度もあの人と店で会ったのに。一度たりとも気づかれなかった。思い出されもしなかった。それだけでも許せないのに、子供まで出来るなんて!」
薄紅は手に持った短刀を握りしめた。
「でももういい。私はこれで壱夜様が永遠に忘れられない女になるの」
そして秘密を打ち明けるように囁いた。
「私が一番欲しかったのはここから出る自由じゃなくて、あの人の心だったの」
そう言い終えると薄紅は自らの喉を突き刺した。
鮮血が辺りを朱く染める。
薄紅は座り込み、ニッと嗤っていた。
まるで己が一番の幸せものだと言うように。
暁は痛みで意識が遠のきながら、その最期を見ていた。
「……私が居たから結果、美露は死んだの? ……ごめんね、美露」
そう呟くと目を閉じた。
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