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三
『壱夜様。貴方が来ない日は月を見て過ごしています。早く貴方に会いたいです』
ここ三ヶ月、頻繁に通うようになった客、壱夜に心にも無い手紙を書き終えると男衆に出してもらうように手配して暁は束の間の自由時間を手に入れた。
考える事は美露の事ばかりだった。
そして、ある考えがよぎる。
本当に美露は親友を置いていく人間だったのか、と。
「姉さま、お菓子を頂きました」
ふすまの向こうから禿の声がした。ややあって開かれると切り分けられた羊羹をもった子が立っていた。
「ありがとう」
まだ来て日が浅いその子はお辞儀をし、ふすまをあまり閉めずに部屋を出て行った。
暁は好物口にすると胃がひっくり返る感覚におちいった。
「……まさか」
こういう仕事はそれと隣り合わせと言っても過言ではなかった。
「相手は、」
直感で、ある武士の顔が浮かんだ。田舎者で、最近江戸に来ては吉原に入れ込んでいる、暁の一番の常連。
「……壱夜様」
以前楼主が言っていた。こういう時の女の勘は侮れないと。
カタリ、と音がして振り向くとふすまの隙間から覗いている薄紅がいた。
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