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第5話 “乙女ゲーム”の世界
「おとめげーむ?」
「そうよセアラちゃん。この世界は“乙女ゲーム”なの」
セアラは困惑した。悪役を演じた訳を知りたかったのに、ラヴィニア様は突然世界の話を始めたのだ。
「ゲームとおっしゃいますと……、ボードゲームやトランプ遊びのようなものでしょうか?」
「当たらずも遠からずね。一番近いのはゲームブックかしら? セアラちゃんはご存じ?」
「はい。物語が書かれていて、途中に選択肢があり、選んだ選択肢のページに進む事で展開が分岐して、複数ある結末のいずれかに辿り着く…」
「そう。ダイスを使うものもあるけど、基本的には本一冊で、マルチシナリオ、マルチエンディングを楽しめるわ。“乙女ゲーム”は、恋愛小説のゲームブック版…みたいな感じかな?」
この世界はゲームだった?
確かにセアラも、人生をゲームのように感じた事はある。ラヴィニア様も同じように、世界をゲームのように感じている……ということだろうか?
「何となくですが、分かりました。ですが、恋愛小説のゲームブックと申しますと…どのような分岐や結末が用意されているものなのでしょうか?」
「それはもちろん、素敵な殿方との出会いや、恋に落ちる過程を楽しむものだから、複数の攻略対象とその結末が用意されているわ」
「………あの、複数の攻略対象とは……いったい……」
「もちろん、殿方よ♪」
殿方が攻略対象? しかも複数の殿方を!?
セアラは顔が真っ赤になる。
「そ、そ、そ、そんなはしたない事っ! 考えた事もありません!!」
「うん。そうよね。そうでなくちゃいけないわ。貴方は主人公ですもの♪」
「主人公? それは……どういう意味でしょう?」
「言葉通りの意味よ。セアラちゃんはこのゲームの主人公。この世界は、貴方が恋をするため、貴方が乙女になるために創られたの。貴方は世界の中心そのものなのよ」
「……意味が……分かりません……。私が、世界の中心?」
「例えば、貴方は何人の殿方と親しくなった? 素敵な方は、ジアード王子だけかしら? 全部で4人いたでしょう?」
セアラはドキッとする。心当たりがあったのだ。
「それは……それは……、選択次第では、他のお方と恋に落ちていたかもしれないと言うのですか? ジアード様は運命のお方ではなかったと言う事ですか?」
ラヴィニア様は首を振る。
「それは違うわ、セアラちゃん。ジアード王子を含めた4人が、4人の殿方全員が、貴方の運命のお方なの」
この魔法学園で出会った4人の殿方が、4人とも運命のお方だった?
セアラの脳裏に、はしたない妄想がよぎり、顔が真っ赤になる。鼓動が激しくなり、考えがまとまらなくなってしまう。
「もう♪ セアラちゃんってば♪ 可愛いんだから♪」
「冷やかさないでくださいっ」
「でも、受け入れるしかないの。それが主人公の役割だから。そしてワタクシの役割は、セアラちゃんの物語を劇的に引っかき回す悪役だったわけ…」
その一言で、セアラは冷静さを取り戻す。
「そ、それです! ラヴィニア様! 私がお聞きしたかったのは、そっちです!」
「ごめんね、前置きが長くなっちゃって♪」
ラヴィニア様は一呼吸置くと、静かに話し始めた。
「ワタクシが前世の記憶を取り戻したのは、7年前。8歳の頃だったわ。ここがゲームと同じ世界で、自分が“悪役令嬢”ラヴィニアだと気付いたの。ワタクシだってこのまま破滅するのは嫌だから、何とか自分の未来を変えようとしたのだけれど……。そんな時、ワタクシの前に“キーパー”が現れたの」
「キーパーとは、いったい……」
「このゲームの管理者。ゲームの世界を生み出した創造主。分かりやすく言えば、神様ね」
「神様が!? ご降臨されたのですか!? お会いになったのですか!? 神様と?」
「神と言っても邪神かな? 少なくとも、セアラちゃんがイメージするような神様とは違うでしょうね」
「いったい、どんな姿なのですか? 恐ろしい怪物のような?」
「いいえ。確かに恐ろしいけど、とても美しかった。肌が黒くて、とても美しい、少年の姿をしていたわ」
「えっ!? そ、それって……」
「ええ。セアラちゃんもご存じの、あの方」
長い沈黙の末、ラヴィニア様は重い口を開く。
「生徒会長の、ナイア様よ…」
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