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第7話 分からない…
セアラは絶句していた。
にわかには信じられない話だった。
確かに7年前、大地震は起きた。それは紛れもない事実。セアラにとっても忘れられないトラウマだ。住んでいた村は震源地からかなり離れて、大した被害もなかったが、揺れる大地は幼いセアラを恐怖させるに十分だった。
それをラヴィニア様は、幼き頃のナイア生徒会長の仕業なのだと言う。しかも、この世界を創った創造主でもあるというのだ。
それを信じろと言われても………
あまりのトンデモ発言。普段なら、学園でのひとときなら、愛想笑いを浮かべて聞き流していただろう。
しかし今、ラヴィニア様は囚われの身だ。いずれ処刑される運命だ。演技にしては迫真に迫りすぎているし、こんな時に敢えて話すという事は……
本当……なのだろうか? 本当に、ナイア様が?
カン、カン、カァン
突然の金属音に、セアラはハッと我に返る。
音の先に目を向けると、隣の檻の鉄格子をノック代わりに叩く、看守の老人が立っていた。
「お嬢さん方、すまんけど面会時間はとっくに過ぎとるんよ。このままじゃワシ、クビになっちまうからよ。そろそろ話を切り上げて、上に戻ろうや」
「ご、ごめんなさい! だけどもう少し、もう少しだけ…」
セアラが視線を戻すと、ラヴィニア様は何事もなかったかのように、椅子に座っている。
「ありがとう、セアラさん♪ 楽しいお話でしたわ♪」
そしてあっちに行けと言わんばかりに、手を払う。
目を腫らしているのに、微笑みを浮かべ、平然を装うラヴィニア。
それは、誰にも取り乱した姿は見せまいという、気高き意志の現れだった。
お別れの時が、来てしまったのだろうか……。
だったら、最後に一言……。何か一言……。
「あの! あの…ラヴィニア様、私、私…」
何も思いつかなかった。
ラヴィニア様の告白を信じる事も、与太話と否定する事も出来なかった。
ましてや、別れの挨拶などしたくない。最後の挨拶など、もってのほかだ。
「また来ます! きっと、きっとまた来ます!」
やっとの思いでひねり出した言葉だった。
地上へと戻る階段を登りながら、セアラは考える。
私はどうすればいいの?
分からない…… 分からない……
「セアラさんや。おーい、セアラさん」
「えっ!? は、はい! 何ですか、看守さん」
「心ここに在らずって感じじゃけど、大丈夫かい?」
「大丈夫です。私は……大丈夫……」
「もしかしてお前さん、あの死刑囚を助けたい、とか思ってやせんか?」
「えっ!?」
助ける? ラヴィニア様を?
「どう……なんでしょう?」
「いや、ワシに聞かれても」
思わぬ問いに困惑するが、セアラの心に否定はない。あれほど恐れ、あれほど憎んだ人を、私は助けたいのだろうか? 分からない……
「お前さんが聖女なのか、ただのお人好しかは知らんがな、滅多な事は考えん方がええ。死刑囚の罪状を知っとるん?」
「国家反逆罪……ですよね」
「そうそう、それよ。それ。うっかり仏心なんざ出したら、お前さんまで反逆を疑われるかんね。下手打ちゃお縄よ、お縄」
そうなのだ。
セアラが許したところで、ラヴィニア様の罪は消えない。セアラへのいじめと、国家への反逆は、別次元の問題なのだから。
セアラに出来る事なんて、何も無い。
……本当に?
本当にそうなの?
分からない……
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