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第2話 面会
連なる六つの檻のうち、五つは空いていた。
聞けば治安の悪かった50年前までは、全ての檻に死刑囚がスシ詰めにされていたという。
しかし治安が良くなり、特にここ10年はほとんど使われていない。ラヴィニア様は久々の死刑囚なのだという。
そして2人は一番奥の檻に辿り着く。
「お~いクロノス嬢! 面会じゃ~!」
檻からは反応は無い。だがベッドには、人間大のボロ切れのような塊が見える。まさか、あれがラヴィニア嬢だというの? 煌びやかなドレスに身を包んでいたラヴィニア嬢の、これが末路だなんて… セアラには信じられなかった。
「なに、大丈夫。まだ死んどらんよ。恐らく眠っとるか、へそを曲げておるかのどっちかじゃろうて。じゃあワシは看守部屋に戻っとるからの。終わったら声をかけてくれ」
そう言い残すと、老いた看守は足早に去ってゆく。
セアラは、廊下の突き当たりに置いてあった椅子を鉄格子の側まで運び、そこに座わる。
改めて檻の中を覗き込むが、これといった動きは無い。まるで無人のようだ。本当にラヴィニア様はここにいるのだろうか? いるとすれば……
セアラはベッドの上に鎮座するボロ切れの塊に向けて声をかけた。
「ごきげんよう、ラヴィニア様。私です。セアラです」
初めてボロ切れが反応する。
「セアラ…ちゃん?」
今、なんて……?
セアラは思わず耳を疑った。
ラヴィニア様がセアラの名を呼んだことなど、一度も無かったからだ。しかも親しげに“ちゃん”付けなど、絶対にあり得ない。もし呼ぶなら、彼女が付けた酷いあだ名で呼ぶはずだ。
“ドブネズミ”と…そう呼ぶはずだ。
セアラが戸惑っていると、顔を上げたラヴィニア様は、キッと睨みつけながら怒鳴る。
「ふんっ! 誰かと思えば、“ドブネズミ”じゃないの!」
ああ…そうだ。その憎まれ口。気高くも苦々しい、高慢ちきな物言い。ボロを着せられ幽閉されても、決して変わらない。それでこそラヴィニア様だ。きっとさっきは、別の言葉を聞き間違えただけなのだ。
「ワタクシに何の用かしら? “ドブネズミ”さん♪」
ラヴィニア様の憎々しい物言いに安心したセアラは、負けまいと睨み返した。
「ラヴィニア様を、憎らしい貴方が破滅する様を、笑いに来ました」
「あら、言ってくれるじゃないの。それで? 今のワタクシを見て楽しい?」
「はい。楽しいです。とても不様で、惨めで、滑稽です」
「そう。それは良かったわね。………ひとつ、聞いてもいいかしら? “ドブネズミ”さん」
「なんでしょう、ラヴィニア様」
「何故貴方は、泣いているの?」
「分かりません。きっと、嬉し泣きなんだと思います…」
「そう? なら、そう言うことにしておきましょう」
セアラはハンカチで涙を拭うと、改めてラヴィニア様を見る。
「ラヴィニア様、私にも質問があります」
「かまわなくてよ。ワタクシもちょうど退屈していた所なの。言ってご覧なさい」
「私をいじめていた時、何故ラヴィニア様は、辛そうで悲しそうなお顔をしていたのですか?」
ラヴィニア様から不敵な笑顔が消えた。
「そう……。気付いていたの…。大した観察眼ね。驚いたわ」
そう言うと、これまで見た事もないような優しい微笑みを浮かべ、こう言った。
「流石はセアラちゃん。やっぱり“主人公”だね♪」
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