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「各務くんが図書室にいるのを知ってからは、普段本なんて読まないのに、各務くんが読んでた本を読んでみたり、近くに座ってみたりなんかして……。
だから、声をかけてくれたとき。そして、告白してくれたとき。
すっごく、すっごーく、嬉しかったの」
彼女は恥ずかしそうに少し目線を外す。
僕はと言えば、耳まで真っ赤な彼女から、目が離せない。
「口を開くと暴走が止まらなくなりそうで、あんまり話せなくって……。
でも、今日はずるいよ。眼鏡ないんだもん。
感情の昂ぶりが抑えられなくなって、つい……」
そう言って、彼女はもう一度僕を見る。
眼鏡に戻った僕を再認識したらしく、「はわわ」と自分の口元を手で覆った。
「わかってるんだ。ヘンだよね、こんなにも眼鏡が好きだなんて。
……でも、少しだけど、各務くんと話せて。
頭がよくて、真面目で、わたしの顔をちゃんと見ながら話をしてくれて。
眼鏡だけじゃない各務くんを、もっと、たくさん好きになりたいと思ったんだ」
彼女はそのポーズのままはにかんだ。
ちょっと上目遣いになっている視線に貫かれて、僕の心の時計は一瞬針を止めた。
「……でも、やっぱり、こんなわたし、気持ち悪いよね。
嫌いになったよね?」
そう言って、彼女は不安そうに僕を見つめる。
相変わらず口元を両手で抑えているせいで、僕の大好きなほくろは見えない。
けれど、その表情、その声色、雰囲気、そして、彼女の気持ち。
そのひとつひとつが、ふわりと僕を包み込んこんで。
この気持ちが、僕の悶々への答えなのかもしれないな。
そう思うと、思わず僕は口元を緩ませた。
ぽつりと、意図せず言葉がこぼれだす。
「そんな斎藤さんも、好きだよ」
おしまい。
【ほくろと、眼鏡。】
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