それぞれの、道

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家の近くのスーパーに着くと、当たり前みたいにあたしの手から鞄をとって持ってくれる。 「いいよ、重くないから」 「美味しい野菜、茉央が選んで」 「何それ、プレッシャーだなぁ」 鞄を持ったのは美味しい野菜を真剣に選ぶためだ、とでも言いたいんだろうか。 優真はたまにこんな風にふざけることがある。あたしが遠慮したり、気を遣ったりしたときには特に。 「ハンバーグな」 「んふふ、ハンバーグね。そういえばさ、この前泊まったときもハンバーグじゃなかった?」 急に泊まることになっても、多少服が優真の家に置いてあるから問題なかった。 歯ブラシとか、マグカップとか、2つ並んだものが少しずつ増えてきたのが、くすぐったい。 「そうだっけ?」 「そうだよ、無意識なの?ハンバーグ好きなんだね」 「そうかもな、多分無意識。そのとき食べたいもの言ってるだけだし」 「んふふ、そっか」 こんな風に並んでスーパーを歩くのも、帰り道で優真が買ったものを持ってくれるのも、だんだんそれが″当たり前″になっていく。 …きっと、これからもそれが続いていく。 あの頃決めたように、あたしは絶対によそ見したりしないから。
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