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最初に彼女を好きになった部分は、声だった。
俺の記憶が確かならば、それを聞いたのは、親睦を兼ねて集まった新入社員同士での飲み会だ。
そこで、俺の隣にいた彼女は丁寧な箸使いでナスの天ぷらを口にし、一言「美味しい」と呟いたのだ。
箸を持つ細い指と、女性らしさが満ち溢れたしとやかな彼女のその独り言は、俺の心を完全に魅了した。
就職するまで、彼女を作るより男同士で遊んだ方が楽しい、と思っていた俺は、この瞬間を機に考え方を変えると、後日数回にわたって彼女に告白をした。
俺の告白を受けた彼女は、最初は「えっ……」と戸惑いを見せていたのだが、数回の告白でさすがに根負けしたのか、ついに俺との交際を了承してくれた。
その後、特筆するモノは別に無い。
数百回のデートを重ね、ベッドで身体の相性を確かめ合い、互いの身も心も一つになったと思えた26歳、俺と彼女は結婚した。
2年後には、子供が生まれた。
彼女によく似た、目の大きな可愛いらしい女の子だった。
──これから俺は、この子の成長を親としてずっと見守っていくんだろうな。
そう、俺は思っていた。
あの、新型コロナウイルスが爆発的に蔓延するまでは……。
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