【ショート・ショート】エンジェルボイス

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運命というモノは、時に残酷な結果を、ナタのように俺達市井(しせい)の人に振り下ろすようだ。 娘が、小学校2年になった時だ。 前述した新型コロナは、この年に猛威を振るうと、その結果俺達の娘の命を肺炎によって奪っていったのだ。 突然の娘の死に、俺達夫婦は目に見えて分かる程の生きる活力を失った。 そして、妻に至っては俺以上にショックだったようで、食事も満足に取らず、その身体はどんどんと痩せ細っていった。 「食べないと」 俺は言葉をかけるが、彼女は「……うん」と、小さく頷くのみで、食事を作る事も食べる事もほぼやめてしまった。 妻が食事を作らなくなったので、食事担当はいつしか俺となった。 しかし、食事など満足に作った事など殆ど無いので、食卓に並ぶ食事は必然的にインスタントかテイクアウトが中心になり、妻はその内サラダのみを口にして「いらない」という日々が何日も続いた。 その時、とある料理研究家の料理のツイートが、俺のTwitterのTLに表示された。 リュウジという、酒ばかり飲んでいる料理研究家が「簡単、ナス料理」と称して、動画内で手際よく一品を作っていたのだ。 ──白だしにナスを浸けて、片栗粉をつけて揚げるだけか。 これなら、俺でも作れるかもしれない。 思った俺は、早速帰りのスーパーでナスを2本買って帰り、乱切りにして白だしに浸けたそれを油で揚げた。 「お前、ナス大好きだったよな。食べてみろよ」 俺の言葉に、妻は「せっかく、作ってくれたんだしね」と、力無い声で呟くと、俺の作った「ナスの唐揚げ」を一つ口にした。
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