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「……美味しい」
ナスの唐揚げを一口食べた彼女は、口元を緩めて感想を述べた。
そして、どうやら口にあったらしく、彼女は俺が作ったナスの唐揚げを、2つ3つと次々と口にしていく。
彼女のその光景を見た俺は、涙をこぼした。
そして、
「前にもこんな事、あったよな……」
と言い、俺は目尻からこぼれ落ちる涙を人差し指で拭っていく。
「どういう事?」
「いや、お前。
初めて喋った、新入社員の飲み会の時。
すげえ綺麗に箸を使って、目の前のナス天を食って、『美味しい』って呟いたよな」
「……そうだったかな」
「で、俺。
お前のその姿と声に一目惚れして、その日から何回もお前に告白したんだけど、それは覚えてるか?」
「それは、覚えてる」
「お願いだから、あの時のお前に戻ってくれよ……」
とめどなく溢れる涙を掌で拭い、俺は目の前の彼女に言った。
「俺が好きになったのは、今みたいに幸せそうに美味しいモノを食べて、天使みたいにボソッと感想を言うお前のその声と姿なんだよ。
そのお前に、戻ってくれよ……。
娘が死んだ事に関しては、俺も悲しいよ。
俺も、お前みたいに飯が喉を通らなくて、死にたいって気持ちになった事もある。
けどよ……、俺達までがこんな風に落ち込んだままでいたら、死んだアイツはずっと浮かばれないだろが。
死んだアイツは、もう戻ってくる事は無いんだからよ。
なら、俺達はアイツが精一杯生きたってのを記憶にとどめて、これからの人生を一緒に生きていくしかねえだろが……。
けど、お前がずっとそのまんまじゃそれも出来ないだろ。
俺がこれからの人生をお前と一緒に生きていこうとしても、肝心のお前がその場で崩れ落ちたまま立ち上がろうとしねぇんだからよ……」
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