今気付いた

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 目を開くと見慣れた天井だった。  起きようとするけど体が思うように動かない。  頭の中がぼやけていて記憶はあやふや。  そういえば過労で倒れたんだっけ。  そういえば病院で点滴を受けたんだっけ。  そういえば家に帰って寝たんだっけ。  そういえば・・・・・・会社・・・・・・!  重い体を起こし、スマホを探す。 「会社には連絡入れといたよ」  そういえば彼女が見舞に来てくれたんだっけ。 「ありがとう」  ひとまず安心し、脱力する。  卓上の時計を見れば7時。カーテンの隙間から覗く外はすっかり暗い。 「お粥、作ってあげようか?」  彼女の申し出に素直に頷く。  台所に向かう彼女を見送り、ベッドに疲れ切った体を沈めた。  この時間に家にいることは珍しい。  ここの所ずっと忙しかったから、たまにはいいか。  ベッドからぼんやり天井を見る。  今気付いた。天井をよく見たらシミのようなものがある。  あんなのあったっけ? ここに越してきて一年経つのに気付かなかった。  あと今気付いた。枕クサい。布団もクサい。  まずほこりっぽい。  最後に干したのいつだっけ。  そして枕から漂う加齢臭。  老けたな、俺。  今度アンチエイジングでもするかな。  ふとキッチンを見る。  彼女の後ろ姿が見える。  モノトーンのパンツスーツ姿。  職場から直に来てくれたのかもしれない。  彼女は髪を掻き上げた。  彼女の髪は肩ぐらいまであるストレートで・・・・・・  今気付いた。ちょっと髪短くなってる。  「ねえ、髪切った?」 「切ったの二週間前だけど」  地雷踏んだ。怒らせたか。  ・・・・・・フンフフーン フーン  キッチンから鼻歌が聞こえてくる。  女心はわからない。 「はい、お待ちどう」  湯気が立ちのぼるお椀一杯のお粥。  他、なんもなし。 「あの、梅干しか何かは・・・・・・」 「無い」  さいですか。 「そのまま食べても結構味あるもんよ」  半信半疑でお粥を口に含む。 「・・・・・・ホントだ」 「ね?」  彼女は笑った。  今気付いた。彼女は笑うと可愛い。
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