リベロ

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 能登島大橋はS字型の橋だ。グッと沈んだ後、もう一度坂を駆け上がる。  運動部の俺たちにとっては、まあなんてことはない。だけど、海の上を走るって、高橋祥太にとっては初めての経験だったみたいだから、気持ちゆっくり走った。  橋を渡り終えると、緑や田んぼに挟まれている県道47号線をひた走る。能登島須曽町の黒い屋根瓦が並ぶ集落を指差し、「あれ、俺の家」と大雑把に教えた。 「坂道、行けっけ?」 「オッケー」  まだまだ余裕のある声に頷き、俺は左折した。等間隔に立つ電柱を、同じ秒数で走り抜ける。《ひょっこり能登島》の標識を合図に、登り坂が始まる。  車通りもほぼないので、俺たちは横並びになって走った。慣れている俺の方がヘロヘロになる訳にはいかない。平気を装ってはいたが、次第に息が切れる。  祥太の自転車の前カゴには、マフラーや学ランの上着、トレーナーと、次々に洋服が詰め込まれていった。  天辺まで行けば、後は下るだけ。  いくつかしかない分かれ道で車に気をつけながら、俺たちは風になった。 「海だ!」  視界が開け、道の先に海が広がる。祥太の歓声にホッとしながら、ゆるくブレーキに指をかけた。
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