リベロ

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 坂を下りた先の県道257号線を東に少し走り、俺たちは自転車を停めた。それは箱名入江の入り口。まだ息を弾ませながら雑草を掻き分けて進み、陸の縁に立った。  透明度の高い海の上でウミネコが輪を描きながら飛んでいる。  俺は前屈みになってフウーッと息を吐き、次に仰け反って思いっきり吸い込んだ。 「リベローーーー!!」  俺の声は海の表面を滑って、入江に響いた。しん、と元の静寂に戻ると、その場にストンと座った。 「晴海?」  祥太は戸惑いながら俺の隣に座った。笑ってみせるとキョトンと瞬きした。 「ここ、野生のイルカがおるって知っとる?」 「そうなの!?」 「いつもおるがんは、もうちょっこし向こうの七尾北湾ってとこ。いい感じの水族館もあっさけぇ、今度行ってみんし」  言いながら入江の向こうを指差した。海風が俺たちの髪をそよそよと揺らした。凪いだ波を見てると心まで落ち着くから不思議だ。 「小学生やった時、親友が引っ越してんて。この辺に住んどって、いつも遊びに来とった。寂しゅうてここで泣いとった時に、イルカが一頭来てくれてんて。嘘みたいやろ」  後で調べてみたら、そこにいるイルカはミナミバンドウイルカと言うらしい。10頭の群れがいるらしく、なぜ一頭だけで来てくれたのかも分からなかった。 「いつでも会えんがじゃねぇげんけど、つらい時とか、特別会いたい時は、絶対来てくれる」 「……リベロって名前は?」 「中学生になってから付けた名前。うちのバレー部、リベロなぁ欲しかったさけ。祥太が来てくれてみんなの願いが叶ってん」
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