34人が本棚に入れています
本棚に追加
祥太は驚きのあまり声も出せず、ポカンとしたままリベロを見た。ズボンがびしょ濡れになってしまったけど、それに気がつく様子もない。震えは止まっていた。
リベロはスルリと祥太から離れて海に戻り、もう一度同じ動作を繰り返した。再び膝の上に戻ったイルカの頭を、祥太は恐る恐る撫でてやる。すると今度はまた海に入って俺たちの足元をくるくる旋回した。
「遊ぼうって呼んでるのかな」
祥太は至極真面目な顔でとんでもないことを尋ね、返事をする前に躊躇いもせず飛び込んでしまった。
「おっ、おい!」
水深は背の低い祥太の腰の辺り。
「すごい! 本当にイルカが来るなんて」
祥太はさっきの体調不良が嘘のように、リベロと楽しそうに戯れた。
「おい! ……もう!」
腰に手を当てて、盛大に溜め息を吐いた。ばか祥太、帰り寒くても知らない。
俺は仕方なしにその場に胡座をかき、後ろ頭を掻いた。水飛沫と笑い声を前に、さっきの怯えた顔を思い出す。
「アイツ、前の学校で何かあったがけ」
俺の呟きなんて、届くはずもなかった。
最初のコメントを投稿しよう!