リベロ

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 祥太は驚きのあまり声も出せず、ポカンとしたままリベロを見た。ズボンがびしょ濡れになってしまったけど、それに気がつく様子もない。震えは止まっていた。  リベロはスルリと祥太から離れて海に戻り、もう一度同じ動作を繰り返した。再び膝の上に戻ったイルカの頭を、祥太は恐る恐る撫でてやる。すると今度はまた海に入って俺たちの足元をくるくる旋回した。 「遊ぼうって呼んでるのかな」  祥太は至極真面目な顔でとんでもないことを尋ね、返事をする前に躊躇いもせず飛び込んでしまった。 「おっ、おい!」  水深は背の低い祥太の腰の辺り。 「すごい! 本当にイルカが来るなんて」  祥太はさっきの体調不良が嘘のように、リベロと楽しそうに戯れた。 「おい! ……もう!」  腰に手を当てて、盛大に溜め息を吐いた。ばか祥太、帰り寒くても知らない。  俺は仕方なしにその場に胡座をかき、後ろ頭を掻いた。水飛沫(みずしぶき)と笑い声を前に、さっきの怯えた顔を思い出す。 「アイツ、前の学校で何かあったがけ」  俺の呟きなんて、届くはずもなかった。
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