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教壇の横に立たされた男子は、明るい茶色の髪をしていた。ぱっと見の印象はおどおどしている感じだ。背も低いし、小動物を思わせる。
半袖の俺とは違い、しっかりと詰襟を着ていて見ているだけで暑い。あれだ。ジャンガリアンハムスター。
「高橋祥太です。よろしくお願いします」
ぽそぽそした小さな声に、クラスのみんなが耳を澄ます。油断した瞬間、担任の野太い声が耳を貫通した。
「色々分からんことあるやろうさかい、教えてやらんなんがいぜ! 席は……古川さんが来とらんみたいだな。今日は取り敢えずその席で」
空気がサッと冷気を帯びる。古川さんは、もうずいぶん来てない。あの騒がしい女子グループに虐められて不登校になった。知ってるくせに、よくそんな言い方できるもんだ。
幸い男子の仲はいい。誰かの嫉妬の対象にさえならなければ、転校生はうまくやっていけるだろう。
高橋祥太は、指定された俺の前の席に俯きながらやって来て、鞄を机の横に掛け、背を丸めて小さく座った。
背中が小刻みに震えている。そうかと思ったら、鞄に徐に手を突っ込み、真っ赤な長いマフラーを引っ張り出して首にぐるぐる巻いた。
「風邪ひいとるが?」
尋ねると、肩越しに振り返って二回頷いた。
「無理すんなま。おい、カーデガンとか持っとるやつおらんがけ? 高橋、寒いって」
俺が教室の端まで聞こえる声で尋ねると、瀬名が椅子に引っ掛けていた紺のカーデガンを持ってきた。えええ、羨ましすぎる。俺も風邪ひいてれば良かった、と恨めしげにカーデガンを着る高橋を見た。
「ありがと……」
高橋は瀬名にお礼を言い、すぐに振り返って俺にも同じ言葉を繰り返した。
「お、おう」
不意を突かれて出た、オットセイ語。
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