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それはまさに悪夢。
どれだけスパイクを打ち込んでも、まるで見越していたかのように走り込んできたリベロが、ことごとくレシーブを決めた。俺たちは惨敗した。
「よっ、今日も勝たせてあたるぜ」
三年生が引退した今、エーススパイカーになった2組の飯島が生意気に笑った。チームメイトだが、体育の授業では敵同士。2組にはセッターとミドルブロッカー、オポジットもいる。
対して、うちのクラスのバレー部はセンターの俺と吉田だけ。対戦成績0-3で負けている。
正直勝算はないけど、もし高橋が『あのリベロ』だったら、食いついていけるはず。
相手チームのサーブ。ダムダム、とドリブルの音が二回響いてきた。飯島の手の中でボールがシュルンと回転する。それは次の瞬間、高々と放られた。
バチン!
いきなり飯島が鋭いジャンプサーブを打ち込んでくる。公式試合ばりのボールがネットのこちら側に飛び込んできた。
ボッ……
コートをしたたかに打つのではなく、柔らかな音を立てて、ボールは真っ直ぐに前衛の俺のところに返される。
「…………ッ!」
反射的にツーアタックで返した。ボールは、一発で決められると勘違いして戻りが遅かった、飯島の足元に落ちた。
「……はぁ!?」
飯島の素っ頓狂な声が体育館に響く。全員の視線が、後衛の高橋に注がれていた。本人は既に腰を落とし、上半身をリラックスさせて、守りの姿勢に入っていた。
目だけが異様なほど本気で、俺は思わずブルッと震えた。
レシーブされたボールは、むちゃくちゃ打ちやすかった。
「やっぱな」
吉田はしたり顔だった。
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