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 翌朝、男は自分の部屋で気持ちよく目覚めた。何時だろう、スマホをみると狂ったように同じ番号から電話が入っている。発信は右へ行った男である。 「メールにしてくれりゃあいいのに。電話はかけてくるなと言ってるのに」 男はひとりごちると、パジャマ姿のままキッチンへと向かう。 「お、いい香りだね」 「あなた、おはよう。コーヒー淹れたところ」 若くて美しい妻が湯気の立つマグカップを男に渡す。小声でありがとうと言いながら受け取ってキッチンの椅子に腰掛ける。カリっと焼けたトーストとサラダ、牛乳、オレンジジュース、ヨーグルト、バター、フルーツ、ジャムの瓶が朝日を浴びて光っている。男の最も幸福を感じる瞬間である。 「パパぁ、おはよう」 「ああ、おはよう」 娘は今日も凝った編み込みにしてもらってご満悦だ。 スマホがまた光った。 「ああ。なんだよ、昨日はどうも。……え、つけてるけど」 画面をみて男は目を疑った。見覚えのあるホテルが映っている。入り口には黄色いテープが張られ、報道クルーが何組かテープの周りを取り囲んでいた。 「お前じゃないよな。女の子がひとりで死んでたらしいんだが」 「……」 「なぜ黙っている。おい。薬をすぐに返せ。治験中の薬を横流ししていたのがばれたら、俺は身の破滅だ。おい、聞いているのか」 男は震える指先でスマホの電源を切った。 「あらあ、物騒ねえ。歌舞伎町で殺人? ひとりでこういうところに行くはずないものねえ。普段の行いが悪いから、こんな死に方しちゃうのよね」 妻が若く罪のない美しい足をもった女を断罪するのを、男は震えながら聞いていた。 了
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