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リハビリ
すれ違う人々のオシャレな装いと、賑やかな若者の喧騒がこの街を表している。
今日はレイコを外へ連れ出し現代の日本を感じ取ってもらうことにした。
道路脇のベンチに腰掛け、道行く人を眺める。
「どうだレイコ、古代日本の感想は? ここが今一番ホットな街だ」
慶太が誇らしげに言った。
「不思議な感覚だわ。ひとりひとりが全然違う服を着てるのを見るのは」
「それどう言う事、レイコ」
不思議そうに聴く加奈子。
「未来は科学の世界よ。見た目より機能性重視だからデザインなんて気にしない。よって同じような服になるわ」
「なるほどね、スマホが登場しても皆んな同じ様な形をしてるのと一緒だな」
慶太は納得したようだ
「あなた達、国際流行色委員会って知ってる」
「知らないそんなの、それ未来の事」
加奈子が聴いた。
「今の時代のことよ。何ヶ国の代表が集まって、今年の色や来年の色を何にするか決めて流行させるの」
「そんなの初めて聴いた。でもレイコよく知ってるわね」
「昔の馬鹿げた風習って事で、よく語られるわ」
意味がよくわからない慶太と加奈子が不思議そうな顔をする。
「だって流行とは、自然的に、ある特定の地域や人物が興した物が受け入れられて流行っていくものでしょう。それなのに来年はこの色を流行らせますって、勝手に決められて不思議に思わない」
ぐうの音も出ない二人。
確かに言われて見ればそんな気もする。
「だと言っても、ファッションのない世界はつまらない気がする」
慶太は、加奈子の言い分もわかる気がする。
その時、目の前を通り過ぎた男がタバコを足元に捨て足で踏み潰す。
嫌な気持ちになった加奈子が言った。
「未来にあんな事する人はいないんでしょうね」
「タバコそのものがないわ。とっくの前に製造中止。だって吸う人がいないんだもん」
「とっくの昔か、俺達にとってはだいぶ先の話だな」
「あの人見て、本当にいるんだねペットに服を着せて歩いている。あら、アッチは乳母車に犬を乗せている」
興奮しているレイコの前を、二人組のカップルが歩いていった。
男の首筋に龍のタトゥーが彫ってある。
「久し振りにタトゥーを見たわ」
レイコが懐かしそうに見つめる。
「タトゥーって無くなったのか?」
「IPS細胞の研究が進んで、皮膚の移植が容易に出来るから最近は見なくなったわ」
「タトゥーが文化として残ってないのか聴いたんだけど」
「慶太、よ〜く考えて。ライオンだって、キリンだって、カバだって、動物は身体に針を指すことなんて許さない。人間だって同じ筈と思わない?」
いい得て妙だが、未来からの助言みたいに聞こえてくる。
誰にでも普通の事が、レイコに取っては過去に行われていた変わった風習に見えるのだ。
「レイコに取って今の世界は異質の世界だね。何だか、かわいそう。」加奈子が同情する。
「望んでやって来たんだから覚悟の上よ。こうして人間観察をすることが、私のリハビリみたいなものね。早く馴染まなきゃ」
微笑む彼女は17歳そのものだ。
もう少しでレイコの身体の調子も、元に戻るだろう。
そうなれば、メトコスの本当の意味がわかるはずだ。
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