水曜日

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水曜日

 水曜日の朝、慶太のアパートで何時ものようにレイコからの連絡を待つ。 慶太と加奈子は幾分緊張気味だ。 今日レイコは、二人に何らかの司令を授けるはずだ。   「俺達の第二章が始まるな」 慶太は神妙な面持ちだ。   「第一章は余りにも刺激的だったわね」 時計が6時を指す。 二人の視線が慶太のスマホに集中する。 6時20分を過ぎたがスマホは黙ったままだ。   「遅いわね」   「焦ることはない。連絡は6時から7時迄の間だから」 しかしこの日、レイコからの連絡は無かった。   「どうしちゃったのかしら」   「さあ分からない。単なるシステムの不具合か、それとも」   「それともレイコさんの身になにか起きたのかもね」 何だかやりきれない気持ちに二人はなった。 この気持ちを来週の水曜日まで引きずるのか。 とても耐え難いと思った。 虚脱感が襲ってくる。   「なあ加奈子。未来は人間の寿命が伸びた事で人口が爆発的に増えだんじゃないのか」   「400億を超えたようね」   「食糧問題があるんじゃないのか」   「科学の進歩で補ったの。サハラ砂漠もゴビ砂漠も殆どが農場や牧場なったの。アフリカの大地もよ」   「魚も?」   「養殖技術が進むだし。海の魚を増やす事にも成功したわ」   「科学万能の世界か。科学至上主義の朱雀氏の思惑通りってことだな」   「住んでみたいような、見たくないような世界ね」 確かにその通りだと慶太は思った。   「どうする。ここで少し寝ていくか?」 少し勇気を出して言ってみた。   「いや遠慮しとくタクシーで帰るわ」 慶太は心の中で、もがく〜と叫んだ。   「じゃあ通りまで送るよ」 この日は何事も無く終わった。 しかし翌週の水曜日も連絡がない。 何をしたらいいのか分からず、虚無感が漂う二人に、翌週遂にスマホが喚き出す。   「もしもし慶太くん。連絡遅れてごめんなさい」   「何かトラブルがあったのか」   「そうなの今後は頻繁に連絡することが難しくなりそう」   「それじゃあ俺達はどうすればいいんだ」   「加奈子はそこにいるんでしょう。今から大事な任務をお願いするわ。イヤホンを付けて」   「音声記憶装置だな」   「今回は、膨大な歴史を送信するわけじゃないから5秒間だけ流れるわ。20秒後に流すから」 加奈子が、イヤホンを装着する。 5秒が経過した。   「終わったわよレイコさん」イヤホンを外して加奈子が言った。     「ありがとう。記憶が整理されたら慶太に伝えて一緒に行動して」   「中身も分からないのに容易にハイとは言えない」 慶太が言うと、   「相変わらず信用がないのね。兎に角私の意思も伝えてあるからよろしくね」 そこまで言うと電話を切った。   「まだ時間が残ってるのに切りやがった」   「何かとんでもない事が起こってるじゃないかしら」   「考えてもどうせ答えは見つからない。それより早く帰って睡眠を取るんだ」 ここで寝る気はないだろうと諦めている。   「そうする。それからハイ」 加奈子が慶太に鍵を渡す。   「何これ?」   「私のマンションの鍵よ。オートロックが面倒でしょう。でも来る前に連絡はしてね。一応女の子だから」 わかったと言って鍵を財布の中にしまう。 顔がニヤけてないか心配で下を向いてしまった。 夕方の5時過ぎに加奈子の部屋で落ち合う事を約束して二人は別れた。
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