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コールドスリープ
グーグルアースを頼りに慶太と加奈子は○○県のある町に来ている。
「多分この家だと思うけど表札が掛かってないから確認できない」
加奈子がスマホを見ながらキョロキョロしている。
そこに七十代と思わしき白髪の老女が、歩いてこちらに向かっている。
あの人に聞いてみようと慶太が話しかける。
「あのうすみませんが、元厚生労働省の医政局長だった生島さんの自宅はここで間違いないでしょうか」
「生島さんは去年亡くなっておられますが」
老婆が怪しいものを見る目で睨む。
「わかっています。その奥さんに会いたいんです」
「あんた達のような若い人が生島さんに何の用ですか」
完全に怪しまれていると思った慶太は
「娘さんの事でチョットお話を伺いたくて」
と言ったところでイタッ、加奈子に腕をつねられた。
「確か娘さんは早くに亡くなっと聞いておりますが」
これ以上突っ込まれるのを危惧した慶太は、スミマセンもう結構ですと言って立ち去ろうとした時、老婆がこう言った。
「私が、生島幸太郎の妻、生島定子ですが」
二人は驚きの為しばらく無言になる。
加奈子が定子に駆け寄ると笑顔で話しかける。
「初めまして。私、中西加奈子と言います。この人は砂川慶太です。。怪しいものではありません。娘さんの事でお話を聞いてほしくてやって来ました」
「死んだ娘の事は話したくありません。帰って下さいな」
定子は機嫌を損ねたかのようにプイッと横を向き家に入ろうとする。
「生きてるじゃないですか優子ちゃん。人体凍結装置で」
慶太は思い切って言ってみた。
驚いた定子はしばらく放心状態に陥ったが、入りなさいと言って中に招いた。
量子コンピュータが慶太を選んだ理由が、加奈子にはわかるような気がした。
先日の音声記憶装置で加奈子が受けた情報と司令には困惑した。
先ず先週、先々週と連絡が途絶えた訳は、時間の歪みが起きた事による中央政府の監視がきつくなった為である。
これはレイコが慶太を介し加奈子に接触した事に間違いない。
次にこの司令が厄介だ。
かつて厚生労働省正医局で局長まで務めた高級官僚の生島幸太郎氏の妻生島定子に接触する事だ。
生島幸太郎氏は去年亡くなられているが、妻定子は存命だ。
この夫婦には世間に知られてはいけない重大な秘密がある。
二人が結婚したのは幸太郎が40歳、定子38歳のときである。
2年後には女の娘を一人恵まれ、優子と命名した。。
歳を取って、子宝に恵まれた二人は優子を溺愛した。
エリートコースを順調に進む幸太郎を見て、周りも羨む家族であった。
しかし、優子が15歳のファンには時に災難が訪れる。
優子が不治の病であるハンチントン病である事が判明した。
この病は、簡単に言うと、大脳の神経が変性、脱落し運動能力や認知力が著しく低下する。
所謂、特定疾患である。
優子の未来を悲観し、自分達が高齢である事も鑑み絶望に陥る。
しかし、現代の医療技術では回復の見込みのないこの病に対しある秘策で対応する。
その秘策とは人体冷凍保存、コールドスリープと呼ばれるものだ。
今の医療技術では治療不可能な病を技術の進歩で克服するまで人体を冷凍保存し、未来に託すことである。
生島家三人は何度も家族会議を重ね、優子の納得を得られると幸太郎は直ぐに行動に出た。
高級官僚の地位を使い、大手医大病院の理事長に助けを得ることが出来た。
アメリカのウィリアムズ延命財団に優子を託すことになった。
その節は、優子が死んだ事にしてもらった。
厚生労働省の医政局局長の行いとしては、大きな論争が巻き起こることが目に見えていたからだ。
医大からは少なく無い見返りを求められたが生島は応じてやった。
あれから20年生島幸太郎は優子の生きた姿を見ぬままなくなった。
加奈子が語ったレイコの司令は、定子に接触し、優子の病の完治を条件に、延命装置を解除させろというものである、
だがこの任務はそう簡単ではない。
誰が、どこの馬の骨とも分からない19歳の若者の胡散臭い話を信じるというのか。
慶太と加奈子は応接室に通された。
緊張の時がやってくると慶太の足が震えた。
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