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ロニー•アッカード
慶太と加奈子が生島定子と対面した時から数週間後の水曜日、久し振りに未来からの連絡が来た。
「待っていたよ、レイコ」慶太が言った。
「残念ながらレイコではない」低い男の声だ。
「どういう事だ、あんた誰だ」
「私の名前はロニー・アッカード、レイコの同僚だ」
慶太と加奈子は顔を見合わせた。
「どうしてレイコさんが電話に出ないの、何かあったの」心配そうに加奈子が尋ねる。
「心配御無用。レイコはもう直、君達の前に現れるさ」
落ち着いて答えるロニー。
「意味がわかんねえ、詳しく説明しろ」と慶太が言うと、言下に加奈子が
「生島優子ね。そうでしょう」
「流石、レイコに聞いた通り利口な子だな仲西加奈子」
慶太も言われてハッとした。
仲西優子の脳に移植される記憶は中川レイコの記憶になるのだ。
「今後君達とのやり取りは、私の任務になった」
慶太と加奈子は目を見合わせた。
「そこにレイコは居るのか。居るなら代わってくれ」
「残念ながら、彼女は担当が代わった。そっちで会ったら詳しい事情を聞くといい」
「全く話が一方通行で参るな」慶太が嘆く。
「ところでロニー、生島優子はアメリカで死んだ事になってる筈よ。どうやって日本に連れてくるの」
加奈子は不安に思っていたことを聞いた。
「それは心配いらない。もうすでに生島優子の名前で社会保障番号も取得できる様になっている。日系アメリカ人になる」
「確かにあんた達ならアメリカの国防省だろうとCIAだろうとコンピューターに忍び込むなんて容易いことだな」
「まっ、そういう事だ。」
「その気になったら核兵器のスイッチも押せるの?」
「ノーコメントと言っておこう」
ロニーは言葉を濁したが、きっと出来るのだろうと思うと、慶太は背筋に寒気を覚えた。
「兎に角、俺たちの方は順調に事は進んでいる。生島定子さんもウイリアムズ延命財団との交渉にアメリカに渡っているが、無事に優子を連れて帰ってくるよ」
「ねえロニー、本当に優子ちゃんのハンチントン病は完全に治癒するのよね」
心配でたまらない加奈子は確認する。
「それは間違いない、約束する。こちらから遠隔治療電波とレイコの脳に治癒メモリーをインプットする。あとはレイコが適当に治療薬を配合して作る」
「難しい事は分からないが、優子ちゃんが健康ならそれでいい」慶太が言った。
「そろそろ時間だ。兎に角、今後は私が君達のメトコスになるよろしくな」
「メトコス? なんだそりゃ」
「まだレイコには聞いていなかったんだな。メトコスとはパートナーと言う意味だ。君達のコードネームでもある」
ロニーが力強く言う。
「へ〜、パートナーね?」慶太はまだしっくり来ないようだ。
そこまで話すと電話は途切れた。
少し沈黙のあとが言った。
「いよいよレイコさんのお出ましね」
「メトコスか。響きは悪くないが、本当のパートナーになれるかは別問題だ」
「ここからメトコスの第二章の始まりなのね」
加奈子の強い決意が慶太に伝わった。
二人は、決して後戻りは出来ないことを悟った。
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