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「……じゃあ、なんでそんなにキョドってんの?」
普段の可愛らしい声から明らかにワントーン低い声で尋ねられる。
「栞が何だか変だからだ!な、何なんだよ、さっきからっ!とにかく離れろっ!近いっ!片腕分の距離すらねーぞっ!?」
グイグイ詰め寄ってくる栞と距離を取ろうと、右手をグッと伸ばし栞の肩を軽く押した。
「そんな……。私と凪君との間で距離なんて必要無いじゃない……」
長く綺麗な睫毛がまるで濡れているかのように見えて思わず胸が跳ねる。
「いやいやいやいや。俺とお前、別に家族でも恋人でもねーし。ただのお隣さんなだけだから。今の時代に逆行すること言うな」
すると、まるで俺の全てを見越したかのようなことを宣った。
「……ねぇ、凪君、知ってる?火のないところに煙は立たない。つまり、疑いの無いところに挙動不審は生まれない」
マスク越しだが、栞が妖しげに微笑んだのが分かる。
スーツの胸元を人差し指で、ちょんっと触られた。
(……こ、コイツっ!!)
「そ、そんな諺知らんわっ!勝手に作るなっ!……あ、ヤベッ!俺、遅刻しそうだから、もう先に行くぞっ!」
俺はスマホを取り出し、急いで改札口を通る。
「……あ」
まだ何か言いたげな栞を残し、人混みを掻き分け駅の階段を駆け下りた。
(……実に恐るべしは、女の勘……)
そんなことを考えながら、丁度、ホームドアが開いた電車へと乗り込んだのだった。
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