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「土方殿、吾輩はそのための小姓なのかね?」
袴の紐を解こうとした手が止まった。土方の目が揺らぎ、自分を覆っていた体が離れていくのを見ながらすかさず言う。
「褥を共にする契約はなかったと思うが。そんなにも我を保つことが困難ならば女を手配できるのに手っ取り早く小姓で済まそうというのは馬鹿げている」
土方が苦悩に苛まれた表情を浮かべ、少しずつ身を引いている。
「吾輩の能力を云々言っていたが、それは口だけで、本当は屯所で起きているように己の欲望を満たすことのが目的なのか?」
「そうではない」
「それでは何故?」
土方は口を噤んだ。櫻島は身を起こして乱れた服を整え、お辞儀をして部屋を出た。
隊士部屋へ向かう途中にたまたま出会った斎藤に、土方は女を必要としている旨を伝えて櫻島は隊士部屋へ入った。
斎藤は言いつけ通りに手頃な女を探して土方の元へ連れて行ったが、土方は受け入れを拒否をし、女は憤って斎藤の頬を引っ叩いた事は、翌日の朝餉の席で知った。
斎藤の忿怒の睨みが痛く、おかげで朝食が喉を通らない。詫びの品にと昨日購入した甘味を差し出した時はまんざらでもない反応で甘味を口に運んだ。一先ず安堵の溜息を吐く。しかし、何故副長は女を拒否したのか。
「土方さん、何か言ってませんでしたか?」
「いらん。の一言でした」
「おかしいな…あんなに発情していたのに」
「は、発情…」
頭を抱えだした斎藤を余所に、櫻島は食事を終えて席を立つ山南を追いかけた。
「山南さん」
「やぁ、三木さんおはよう」
「おはようございます。今日も山南さんの部屋で作業しても?」
「かまわないよ」
山南の後に続いて部屋に入った。
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