第一章

14/15
前へ
/17ページ
次へ
「祭りですか…。みなさんで行ってらっしゃい」 「「「え」」」 櫻島達が驚きの目で山南を見た。 「私は山南さんを誘ってるんですよ!?三木さんも平助も」 「あまり乗り気ではないですね…」 三人は顔を見合わせ、円陣を組んだ。 「えー…どうすれば来ますかね?」 「条件付けとかは?ぱっつあんとか連れて行けば話が盛り上がるとか」 「永倉先生か!いいですね」 「あと誰連れて来ればいいんでしょう。あ、土方さんは駄目だね」 「あと左之助はうるさくなるから飛ばしですね」 「悩ましい…」 そっと山南の顔を伺うと、笑顔の山南が自分達を見つめていた。 「山南さん、どうすれば来ますか?」 「そうですね…先ずはこの書類を片付けてもらいましょうか?あとはそうですね、肩揉みと、あれとこれとそれと…うーん、いっぱいありますね!」 そう言いながら、紙に次々と条件を書き連ねる時の仏の笑顔が悪魔に見えた。 沖田と藤堂と協力して二十ヶ条の条件をこなし、現在残り十。櫻島は紙を握りしめ、表情を無にして颯爽と廊下を歩いた。 (荻でも見たぞ、あの笑顔。恐ろしい) 「あと十…あと十…」 「何が、あと十なんだ?」 今向かっている部屋主の声にそっくりな声が後ろから聞こえたので、握っていた二十ヶ条の条件書を慌てて懐にしまい、立ち止まった。 「副長殿、気絶しているのかと」 「今昼だろ。で、何を隠した?」 「これは指示書だ。山南殿の」 土方は「そうか」と言って櫻島を抜かすついでに、盆に乗っていた沢庵をつまんで口に放り込んだ。 今朝撃沈したばかりなのだが、慣れなのか、強靭な心なのか。それとも強がっているのか。先に部屋の戸を開けてくれた紳士の顔を見ると余裕そうだった。 土方はすぐに机の前に座り業務を再開した。櫻島はそっと机の上にお茶と沢庵が乗った皿を置いた。 「ん。ありがとう」 「礼とは珍しいですね」 土方は「ふんっ」と鼻で笑い、余裕の笑みを浮かべながら櫻島の目をしっかりと見た。 「俺は策略家でね。褒めて褒めて落とすんだよ」 「流石ですね。頑張ってください。あ、そうだ。近々祭りがあるのだが、その日吾輩も行くので非番でお願いしますね」 「は?」 口に運んだ沢庵が落ちるのを見た。 .
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

49人が本棚に入れています
本棚に追加