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場所は京の壬生村にある新選組屯所。
その一角にある新選組副長の部屋で、楽しげな声がちらほらと聞こえていた。
「知ってます?最近京に巫女さんが来たらしいですよ」
沖田総司が執務中の土方歳三を邪魔するようにそう言うと、別の場所で作業しているはずの櫻島涼が、目を輝かせながら手を挙げた。
「その話、もっと詳しく」
「ーーは?あんたはやるべきことがあるだろ。山南さんに頼まれてたことが」
「私だって目の保養が必要なんですよ。旅をする巫女さんということは、そういうこともしてくれるってことでしょう?」
“そういうこと”ーー意味を理解した土方と沖田は溜息を吐き、櫻島の言葉を無視して話を続けた。
「近藤さんは今どこにいるんですか?」
「上の仕事だな。会合に呼ばれて行ってる」
「雄藩連盟ですかねぇ…」と櫻島はボソリと呟き最近多発する怪奇な事件の出来事を紙にまとめた。
(ということは、もうすぐ桂殿と城田殿と会うことになるのか)
櫻島は、土方とその執務を邪魔する沖田と双方を見て筆を置き、部屋を出て山南の部屋に向かった。
山南の部屋の戸を軽く叩いて開けると、机の前に座っているが、筆を動かさずどこか遠くを見る山南敬助の姿があった。
「山南さん、どうされましたか?紙が滲んでますよ」
「へ?ーーあ、ああ。本当だ」
慌てて筆を置いた所為で墨が溢れ机上が汚れてしまった。それを見て櫻島は苦笑しながら山南の手伝いをした。
「らしくないですね」
「うーん…少し考え事をしていたんだ」
「もしかして、改元後の出来事ですか?」
「それもあるね。今考えていることを分かち合える人がいなくてね」
「ははは」と苦笑いする山南を見て、櫻島はある提案をした。
「山南さん、この前会いましたご友人に会われてはいかがでしょうか?」
「え、この前の?」
「ええ。私も一緒に行きますよ」
「そうだね。それはいい案だ」
山南の顔に生気が戻ったように感じた。
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