第一章

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奉行所の役員が人集りを解散させようと忙しなく動いている。櫻島の姿ももう見えない。 ちょっとした拍子に桂さんの名前を言ってしまったのかもしれない。ーー山南はそう考えることにし、桂がいる置屋へ向かった。 一方櫻島は、奉行所の役人と一緒に現場の確認をしていた。 「最初に発見した者の証言によると、男と女が言い争いをして女が平手打ちをして去ろうとしたところを、男が憤って斬った。と」 「はい。洗濯しようとしてあまりにもうるさいので声を掛けようとしたんどす。私以外にも目撃した人ぎょうさんおると思います」 役人の取り調べに耳を傾けながら、男性の死体の傍に落ちている割れた刀の鍔を拾い上げた。 「お役人様、こちらの割れた鍔を証拠として屯所に持ち帰ってもよろしいですか?」 「だめだ。奉行所で預かる」 奉行所の連中が言うことはわかりきっていた。あえて公言することで、これから起こるだろう関連事件で意識するようになるはずだと考えての行動であった。 山南と桂がそろそろ来る頃だろうーー櫻島はそう考えながら辺りを見回すと、人集りの中にいる少女と目が合った。 別段目立った服装でもない、ただの少女である。だが、人集りが死体に目線を向けている中で、唯一この少女だけが櫻島を見ていた。 「三木さんお待たせしました」 山南と桂が駆けつけてきた。人が多くても桂が変装しないのは、城田の術の功だろう。 「以前山南さんと一緒にお会いしましたが、改めまして、三木京次郎と申します」 「あーーああ、私は、、そうだなここでは大きな声で名乗れないが桂小五郎だ」 桂に軽く挨拶をして少女に目を戻すが、そこには少女の姿はなかった。 早速山南が桂に死体の様子や状況などを説明し、割れた鍔を指差し櫻島を見た。 「三木さん、確か先日も同じような割れた鍔が証拠品として上がりましたよね」 「はい。屯所で預かっております」 「桂さん、あくまでも予測に過ぎませんが、呪いの一種と私は考えています」 桂が片眉を上げた。 「以前の君なら言わないであろうその類の話がまさか君から発せられるとは。絵画の件の影響かね?」 「ええ。私はあの時に確信したんです」 桂と目が合った。櫻島にとっては他人事の話ではない。当事者である。 .
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