第一章

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「桂さんはどう思いますか?」 「うーむ…」 桂は呻きながら何度も櫻島を見る。櫻島の能力で解決するものかどうか確かめるためだ。 櫻島は頷いて口を開く。 「山南さん、記録方として申し上げます。山南さんが言っているその呪いの類なのかもれません」 山南が目を見開き櫻島を凝視した。本人は気付いていないだろう。口の端が上がっている。 「どういうことだい三木さん」 「あくまで憶測です。鍔というものはそう易々と割れるものではございません。しかし、こうも変死体の近くに割れた鍔があるとなると、一つの“願掛け”みたいなものがあるのではないかと考えます。願いも呪いと紙一重かと」 「なるほど!それは考えもつかなかった」 「山南君。これは優秀な部下を持ったな」 「いやぁ、私の直属ではございませんが」 山南は苦笑しつつこめかみを掻く。しかし、その顔は嫉妬や憎悪ではなく、本当に優秀な部下だと思っているのだろう。櫻島を見る目がとても優しく、且つ期待を含めた色をしていた。 そういうところも、あの方に似ていると錯覚するほどに。 少しすると町奉行の役人が撤退の命令を下し、藁を被せた遺体と運ぶ役人と共に野次馬もついていき、鴨川が静かになった。残った三人も元来た道に戻ろうと歩き出し、途中山南が思い出したように口を開いた。 「桂さん、一つ聞いても?」 「何かね?」 「前も思ったのですが、なぜ変装せずにいるのですか?」 おっとーー桂と櫻島は息を飲んだ。 山南の言わんとすることはわかった。京都でお尋ね者の桂小五郎が、平然と京都を歩くことに疑問を持つのは当たり前だ。 だが、下手なことは言えない。城田の技によって撹乱させられていると。 「(変装…変装…ーーうーむ…変装しなければならないほどの身分だと勘違いすれば乗り切れるかも)」 櫻島はハッと桂を見て後退りし、頭を下げてわざとらしく声をあげた。 「桂様。申し訳ございません。桂様がお忍びされるご身分であると知らず、馴れ馴れしくお声掛けしてしまい…」 桂と山南が目を点にして櫻島を見た。勘の良い桂は櫻島の意図を汲み取り、あまりの面白さに肩を震わせ、そして口を開いて大声で笑った。 「はっはっはっはっは!!!山南君。彼は私が将軍か何かに見えるかね?いつからお偉いになったのであろうな!はっはっはっは!!」 「そ、そうですね。桂さんはお偉い身分ですよ。私の部下の無礼をお許しください」 「よいよい。まぁ今回はそういうことにしておきましょう。とりあえずこの件は私の方でも調べるから、君もわかることがあったら文を寄越しなさい」 「はい」 「では」 よほど気に入ったのか、去りながらも笑いを絶やすことのない桂の後ろ姿を見ていると、その先の店に城田が腕を組んで立っているのが見えた。 隣でため息を吐く山南に気付き、櫻島は慌てて謝罪した。 「あの、粗相を犯して申し訳ございません」 「い、いや大丈夫。君は本当に賢いんだか面白いんだかわからないね。そういう所も良いのかもしれないね」 よく見たら山南の目尻に涙が溜まっていた。笑いを堪えていたのか? 山南は櫻島の頭に手を乗せ、「よくやりました」と言って軽く撫でた。 「屯所に帰りましたら記録をお願いいたします。誰に会ったのか呉々も内密に」 何故?とは聞かなかった。そんな愚かなことはしない。櫻島は素直に「はい」と返事をし、山南と共に屯所へ戻った。 .
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