第一章

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屯所に戻り、土方の部屋へ入るなり土方に腕を掴まれ壁へ押さえつけられる。最近はこのような行動がないと油断していた櫻島は溜息を吐いて土方を睨んだ。 部屋にある明かりは机にある灯火だけで周りは暗い。だが、土方のギラギラとした双眸は自分を写しているのが分かるし、見えないがどのような表情で自分を見ているのか櫻島は察していた。 小姓というのは、時には“そういうこと”も受け入れる事も仕事の内なのだろう。だから自分をそばに置いている。最近になってそういうものだと知った。 だがその空気を潰すのがこの櫻島である。「業務報告をしまーす」と大声を出しながら土方の胸板を強く押した。 あっさり腕を離したものだから、拒絶されたことを良しとしたのか。もしや痛めつけられることを趣としているのではないか?もう一度やってやろうかと土方を見た。暗くてもわかる。土方の目が熱に帯びている。割と限界に近いほど我慢している。 「あー…そんなに溜まっているのか?女を呼んで来ましょうか?」 「いいから、早く、報告をしろ」 その割には一度間合いを開けたのにも関わらず詰めてくる。いつまで経っても背中が壁から離れることはない。今日は満月だったか?そう思いながら櫻島は窓の外を見たが、夜空の月は欠けている。 櫻島は咳払いをし、鴨川での出来事を報告した。もちろん桂との接触に関しては伝えず。 報告が終わるや否や土方の唇が櫻島の唇を覆い、貪るように吸い舌を絡めた。 流石遊び人、舌の使い方が上手いな。と櫻島は冷静に考えながら、自分の体を触りごく自然に畳へ押し倒すこの狼の肩を押し返す。だが大の大人の体重を押し返す力は自分にはない。そして当たる。獣が少しずつ自分の体に擦り付けていくその様に耐えかねて、 「土方、あんた小さな穴に“そいつ”を突っ込む気か?」 土方が止まった。どういう意味で櫻島が言ったか土方は理解するであろうし、その類について屯所内に流行っている出来事で頭を悩ましていた本人が同じ状況下に置かれているのだから、こう言えば行動を止めると櫻島は考えていた。 しかし人間という者は、時には頭と体の疎通が取れないことがある。それは本能の故だ。土方はやはり土方で、男なのだ。 嗚呼どうしてこういつもこのような境遇になるのか。自分は何か振りまいているのか?櫻島には今まで身に起きた出来事が走馬灯のように見えた。 .
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