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中嶋さんの姉弟は手を繋いで黄昏に染まる道を歩いていた。弟の貴文くんの手は心なしか震え、目線もキョロキョロと辺りを何か探して挙動不審の体を見せている。中嶋さんはそれを不審に思い尋ねた。
「どうしたの? さっきから変よ?」
「だ、だって…… 赤マントとか口裂け女とかいたらどうしようって……」
ああ、児童館で聞いた怖い話のことを思い出して怖がっているのか。この科学万能の令和の世の中、こんな昭和に生まれた都市伝説の残滓が存在するはずがない。話こそ怖いがありえない。中嶋さんはバカバカしいと考えているのであった。
「ほら、電信柱の向こうに何かが……」
貴文くんは夕日に染まり紅い電信柱を指差した。その後ろには誰もいない。
「何もいないじゃない」
「前から人面犬が歩いてきたら……」
この時間、歩いてくる犬と言えばこの時間帯の夕方の散歩に出る人懐っこいチワワを連れた有閑マダムか、黒い柴犬連れのリタイアライフを堪能するオジサンぐらいだ。人面犬なぞがひこひこと尻尾振りながら歩いてくるはずがない。中嶋さんは「ありえない」と思いながら道を進み行く。
すると、二人は神社の前を通りかかった。
自宅に近い交差点の角にぽつんとある神社。この辺りの住人からは氏神様として皆に祀られている神社である。参道脇の境内にはいくつかの遊具がある、ジャングルジムとすべり台が一体化したものに、ブランコが設置されていた。
ブランコには見慣れない男の子…… 貴文くんと同い年くらいの男の子が一人ぽつんと佇みながら ゆーらゆーら と、ブランコを漕いでいた。
貴文くんはその子の元へと駆け寄り、隣で一緒にブランコを漕ぎだすのだった。
友達か。しかたないなぁ…… 中嶋さんは神社に立ち寄ったということで参拝をすることにした。
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