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二人は帰路に就いていた。黄昏色に染まる町を歩いていると、貴文くんが違和感に気がついた。
「お姉ちゃん、おうち、着かないね」
そう、いつもであればとっくに家に着いている程の距離を歩いているのに家に着かないのだ。歩く景色はいつもと変わらない風景。二人の家も遠目に見えているのに辿り着くことが出来ないのである。スマートフォンの時計を見ても、夕方の六時前、児童館を出たのが五時四十五分、神社で少年と遊んだことを差し引いてもとっくに家に着いていてもおかしくないぐらいは歩いていたように感じるし、体内時計も数時間は歩いているように感じられた。
これはおかしい。そう思った中嶋さんが足を止めて辺りを見回すと、そこは神社の前だった。
神社を出たのはかなり前のはずなのに、どうしてまた神社の前にいるのだろうか。
彼女がふと神社の方に振り向くと、参道の中央で笑顔で手を振るあの少年の姿を見るのであった。
まだ帰ってなかったのか、あの子。中嶋さんがそんなことを考えていると、再びスカートを引っ張られるような感覚を覚えて素早く振り向いた。
そこにあったのはあの少年だった。先程とほぼ同じシチュエーションである。
「ねぇ、遊ぼ?」
さっきまで遠くにいたのにどうしてこんな近くに来ているのだろうか。中嶋さんは少年のことをより不気味に感じるのであった。
「ど、どうして……」
「今は昼と夜の間、暗くないよ。怖くないよ? だから一緒に遊ぼ? ね?」
貴文くんは「少しだけならいいか」と、思い、少年に向かって一歩を踏みだそうとした。しかし、中嶋さんは手をぐいと力強く引っ張りその動きを止める。
「おねえちゃん?」
「行くよ!」
二人は疾走った。これ以上この少年と関わってはいけない、何故かそう感じた中嶋さんは貴文くんの手を引いて全力で走る。
「お姉ちゃん、痛いよ」
貴文くんのその声に構わずに中嶋さんは疾走り続けた。息を切らし肩で息をするぐらいになるまでの激走の末、辿り着いた場所は無情にも神社の前であった。
全力で一直線に走ったのに、なぜか神社の前に戻ってきてしまったのである。
「どうして……」
中嶋さんはその場で天を仰ぐように黄昏色の光に包まれたアスファルトの上に転がるように倒れ込んでしまった。彼女が見たものは天に限りなく広がる黄昏色の空に、それを覆う橙色の雲であった。
薄れゆく意識の中、黄昏色の空に覆い被さるように少年が中嶋さんを見下ろしてきた。口角を上げてニヤリとした後、貴文くんに向かって微笑みかける。
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