夕方の神社

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「遊ぼ?」 少年は貴文くんの手を引いて神社の中へと走って行った。中嶋さんは「お願い、待って」と口に出し、手を伸ばそうとするが、全力で疾走(はし)り、満身創痍の体ではそれも叶わない。 全身の力が抜けて、冷たくなるのを感じながら中嶋さんは気を失った……  視界が薄ぼんやりと徐々に白くなりゆく目で最後に見たものは少年が貴文くんの手を引いて神社の中に走っていく姿だった。  意識を取り戻した中嶋さんを出迎えたのは満天の星空だった。スマートフォンの時計を見れば七時を少し回ったぐらい。一時間近くも気を失っていたのか…… 彼女はそんなことを考えながら神社の中を見るが、誰一人として人はいない。嫌な予感を覚え、境内を全て虱潰しに走り探し回るが誰の姿もない。 それから家に帰った中嶋さんを待っていたのは両親からの貴文くんの行方を尋ねる苛烈なまでの叱責と追求だった。いつの間にか変な道に迷い込んで帰ることが出来なくなって、貴文くんが見知らぬ少年と遊びに行って以降知らないなどと言う答えは荒唐無稽の極み、信じてもらえるはずがなかった。
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