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地下鉄の駅から高良瀬川沿いへと浮上。群青色の夜空が出入口の先に広がっていた。重い仕事鞄を持って階段を駆け上がったのに、汗一つかいていない。日が沈むのも早くなったし、随分と涼しくもなった。もう秋らしい。
地下鉄の出入り口と繋がったビルの一階には古本屋のチェーン店があって、蛍光灯の明かりが店内から人通りを白く照らしている。自動扉の前に立つ君の姿も。
少し膨らんだ腰回り。ゆったりとしたニットに、裾の広がったワイドパンツ。二週間前はまだ残暑で夏服だったから、君の秋服を見るのは初めてかもしれない。
「――待った?」
「そうでもないよ。スマホで更新見てたし」
問いかけると、君は首を横に振って、スマートフォンを鞄に仕舞った。
明日那、それが彼女の名前。名字は知らないし、本名かどうかも知らない。多分、ハンドルネームかペンネームか、そういう類のもの。
「じゃあ、ご飯行く?」
「その予定だったけど? 無理ならいいけど? 八雲さん忙しぃだろうし?」
「いや、ていうか、もう時間作って、来ているわけで。大丈夫だよ。さすがに九時か十時頃には撤退だけどさ。明日も仕事はあるから」
「あー、私も、明日提出の書類終わってないんで、夕食だけくらいで大丈夫ですよ」
「そっか。じゃあ、丁度いいや。行こうか?」
僕がポケットに手を突っ込んだまま頭で道の先を指し示す。明日那は了解を表すようにセーターの袖口を指で摘んで持ち上げて、一つ頷いた。
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