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1-8 言いかたァ……
初日は散々だった。
納品時間はあらかじめ時刻表で決められている。
しかし配送物量は日によって増減するため、常に同じ時間で納品することは難しい。
そのため、規定によって時刻表の30分前から納品を開始してもよいことになっていて、定時を超えてしまうと延着扱いになる。
つまり最大30のHPからスタートし、納品時間の超過をダメージとしたとき、HP0はセーフだがマイナスになったらアウト!というルールだ。
1便の1件目の納品でさっそく25のダメージを受け、瀕死になった。
結局次の店からは星野に交代となった。最終店でまたよつ葉は納品をさせてもらったが、今度は倍以上の時間がかかった。
1便からセンターに戻った時間が遅れたため、2便の積込時間が削られ、よつ葉はまた1件の積込しかできず、納品も初店と最終店しかできなかった。
研修でよく使われるだけあって、配送物量は平均的に少ないコースだった。
それでも必死に動き、脱力感やら無力感やらに包まれたよつ葉には取り付く島もなく、楽しみにしていたカボス星とスダチ星の星間航路の光景を見ることも忘れていた。
頭の中を整理したくてもメモ帳を出すこともできず、よつ葉は船内でずっと生気のない目をしながら、1便の積込のときのことを考えていた。
「お疲れ!」
研修レポートを入力した星野は、またよつ葉を置いて自分だけ帰ってしまった。
営業所から出ていく星野をちらっと見た野代は溜息混じりに立ち上がり、小部屋で考え込むよつ葉に話しかけた。
「疲れたでしょう」
よつ葉は苦笑いしながら答えた。「いえ、結局ほとんど何もできなかったので」
「初日なんてそんなもんですよ。ちょっといい?」
そう言いながらタブレットを手にした野代は、驚いた様子で声を上げた。
「これだけできれば十分だな。普通初日でここまではできないよ」
それはよつ葉にとっては意外な反応だったが、実際は星野の回復能力の高さゆえにHPを浪費できているだけなのは、よつ葉自身が一番分かっていた。
「あの、関係ないこと聞いていいですか」
よつ葉の問いかけに、野代はタブレットから顔を上げて答えた。「どうぞ?」
「きょう、ずっと銭湯の話をしていた人に話しかけられたんですけど」
「銭湯?」
野代は少し考えていたが、すぐ誰かわかったようだった。
「ああ、タケちゃんか。ええと、長池くん。どうした?」
「いえ、なんでもないんですけど、星野さんと仲がいいのかなあって……」
野代は首を傾げた。
「さあ、タケちゃんは人のことを悪く言わないからね——」
その何気ない一言は、星野の立ち位置を端的に表していて、よつ葉はそれ以上聞くのをやめた。
自身の個所を入力し終えたよつ葉は、点呼を終え、営業所を後にした。
もともと簡単だとは思っていなかった。ただ、想像以上に何もできなかった。
「イタタタタ……」
スクーターに乗ろうとすると、脚が上がらなかった。
たった1日、最初から最後までどころか、全体の3分の1すらできなかったのに、もう全身が重たかった。
「身体が痛くなったり、しんどくなったりしたら、すぐに言わないとダメだよ。身体を壊してしまうと、治すのに時間がかかるからね」
星野を見ながらよつ葉にそう言った長池の真意は分からない。
ただ、船内で虚ろな表情をしていたとき、よつ葉は気づいたことがあった。
それは、長池の言葉を省いてはいけないところまで省いていくと、どこかで聞いた言葉になるということだった。
「無理だと思ったらすぐ言って。時間の無駄だから」
なんとかスクーターに座って起動ボタンを押しながら、よつ葉は呟いた。
「言いかたァ……」
悪意を帯びた呪文のようだった星野の言葉の意味するところは、定かではない。
だがよつ葉にとって星野の存在が上がったり下がったり、日々混迷を深めていることは間違いなかった。
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