追憶1一出会い一

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彼女との思い出を語るに欠かせないのはまず、出会った日のことから話すのが一番適当だと思う。 彼女と出会ったその日は初夏と新緑の匂いが鼻孔をくすぐる、じんわりと暑い日だった。 今でもはっきりと覚えてる。 その日はかなり急いでいた。 というのも大事な就職の面接が控えているにも関わらず、寝坊してしまったからだった。 寝坊というパターンもお約束である。 大学を卒業してから早いもので三ヶ月が経つというのに、俺は未だに就職を決めていない。 早く定職につかなくては…と気持ちばかりが焦っていた。 父親が早くに他界し、母さんは女手ひとつで俺を大学まで行かせ、無事に卒業できたのだ。 だから早く定職について母さんに楽をさせたいのに、俺ときたら… 男の風上にも置けない。 とにかく、今は叱咤してる場合じゃない。 遅刻はできないのだ。 厳しい所では少しの遅刻で面接をさせてもらえない所もあるらしい。 今回の面接もそこまで厳しいかどうかは定かじゃないが、少しでも印象をよくしたい… 極論だけど、次はないのだと自分を追い詰めなければいつまでたっても就職は決まらない。 俺はとりとめのない思考を中断して、歩き慣れたアスファルトをやや駆け足で進む。 確か面接は10時半からだっけ?と腕時計を見やる。 じんわりと暑い… まだ夏本番じゃないっていうのに、立ってるだけで汗をかいている。 今年の夏はどうなるだろう。 いや、いかんいかん!もう大学は卒業したんだ。 いつまでも学生気分のままじゃいけない! 俺は己の心を奮い立たせ再度、腕時計に目をやった。 このペースじゃ完全に遅刻してしまう。 俺はペースを早めた。
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